表現の多様性 コミュニケーションを豊かに(10月23日付)
日常的なコミュニケーションの在り方をよく観察すると、私たちは言葉や全身を使った多様で複雑な表現方法によって情報をやりとりしていることが分かる。このことから、相手の息遣いを感じることのないSNSを駆使した会話や情報交換、あるいはデジタル化された音声や視覚だけに偏ったコミュニケーションでは気分や感情の起伏を十分に伝達することは難しいと気付く。
表情は心を映し出す鏡のようなものだから、対面する相手のまなざしや口の動き、顔色の微妙な変化によって、その人の心の状態が読み取れる。「目は心の窓」といわれ、「口ほどに物を言う」という。不平不満があれば知らず知らずに口元がゆがみ、うれしさや喜びは自然に笑顔となって表れる。言葉を音声として聞けない人は、唇の動きや表情から読み取り、音声だけを聞き取る場合は息遣いや声色からも理解する。
聴覚障害のある子どもが、マスクを着けることにいら立ち、怒りをぶつけるようになったと話す母親がいた。ウイルスを防ぐためにマスクは欠かせないアイテムだが、円滑なコミュニケーションや相互理解のためには障害物となる。このため、口元が透明になったマスクが開発されている。
人と人とのコミュニケーションにおいて、言語情報、聴覚情報、視覚情報のうちどの情報が相手の印象に影響を与えるかを調べたデータがある。心理学者のアルバート・メラビアンが1971年に、口調の強弱や表情の変化によって印象に違いがあるかを独自に検証したもので、言語情報が7%、聴覚情報が38%、視覚情報が55%のウエートで影響を与えるという結果が得られた。これが言語コミュニケーションと非言語コミュニケーションのいずれが優先されるかを判断する手がかりとされ、言語情報(Verbal)、聴覚情報(Vocal)、視覚情報(Visual)の頭文字を取って3Vの法則、またはメラビアンの法則と呼ばれている。
言語情報とは直接的に話したり書いたりすることで相手に伝える情報。聴覚情報や視覚情報は、言葉を介さなくても身ぶり手ぶりや顔の表情、声のトーンや発音の強弱などで思いや感情を相手に伝えることができる。非言語コミュニケーションが相互理解の上で大切な要素であるからといって、この法則が言語コミュニケーションを軽視してよいと結論付けているわけではない。目指すところはバランスの取れた、豊かなコミュニケーションの回復にあると言えるのではないだろうか。