過去との対話
「何の罪もない人々に、計り知れない損害と苦痛を、我が国が与えた事実。歴史とは実に取り返しのつかない、苛烈なものです。一人ひとりに、それぞれの人生があり、夢があり、愛する家族があった。この当然の事実をかみしめる時、今なお、言葉を失い、ただただ、断腸の念を禁じ得ません」◆安倍晋三首相(当時)が戦後70年に際し発表した談話の一文だ。戦後50年の村山談話が明言を避けた戦前の日本の「誤り」の起点を「満州事変」と明示するなど、より進歩的な内容で、国内外で一定の評価を受けた◆タカ派の印象が強い安倍氏だが、心の奥底には平和への熱い思いがあったのか、あるいは外務官僚の作文をそのまま採用したのかは定かではないが、右傾化が囁かれる社会に一石を投じたことは確かだ◆今年は戦後80年。かつて核武装を持論としていた現首相は、世界にどのようなメッセージを発するのだろう。現首相はプロテスタントの信者であり、仏教や神道とも関係が深い。血の通った言葉を発することを期待したい◆改めて戦争責任と平和の意義を考えるべきなのは首相だけではない。歴史家のE・H・カーは「歴史とは現在と過去との間の尽きることを知らぬ対話」と述べた。一人一人が絶えず自国の歴史との対話を続け、平和な社会を維持しようと努めること。多くの犠牲の上に成り立つ現代を生きる私たちの責務だろう。(奥西極)