「物を慈しめる生活を」と語る遺品整理士 林邦子氏(51)

遺品整理や生前整理の仕事に携わって15年。奈良県生駒市に「一林」の屋号を掲げ、1カ月で約20件の依頼を受ける。遺品整理は単なる物の処分ではなく、思い出の詰まった数々の遺品と別れを告げる儀式であり、遺族が人生のリスタートを切れるよう後押しするのが遺品整理士の役目という。
岩本浩太郎
遺品整理のお仕事を始めたきっかけは。
林 15年ほど前に実家の曹洞宗興大寺(奈良県下市町)の檀家さまからその方の母の着物について相談を受けたのがきっかけでした。残念ながら私の経験が浅かったために処分することになりました。今でしたら古物商として現金で買わせていただいて、着物を収納されていた和だんすの処分費用に充てることができたはずでした。
その後、そういうお困りの方の力になれないかと思い、遺品整理士や古物商の資格を取り、司法書士や廃棄物処理のノウハウを持った方など私にできない部分を教えてくださる方に集まっていただける場をつくりました。次第にご相談が増え、依頼主さまからも「あなたがいてくれると心丈夫だわ」と言っていただけるようになりました。
遺品には値が付く物とそうではない物に大別されると思うのですが、それ以外に残す、残さないの判断基準はあるのですか。
林 最初に施主さまにお探しの物をお聞きします。もちろん、印鑑や思い出のアルバムなどは取っておくようにしますが、中には調べるのに時間のかかる物もあります。
例えば、ご両親の会話を録音したカセットテープを依頼された時は、何百本ものカセットテープが残されていて、それを全て段ボール箱に入れてお渡ししました。「2030年までに開封しなければ処分」と期限も決めました。
どうしてですか。
林 カセットテープは劣化するからです。処分の時期は物の性質によって異なります。例えば仏像でしたら、ただ保存しておくのではなくて、誰かに手を合わせてもらえるのが本来のお姿。もし信仰心がないのであれば、手放してあげて、仏像を拝んでくださる方にお譲りして差し上げるようお勧めします。
区切りを付けさせてあげるのも大切なのですね。
林 施主さまは故人が大切にしていた物を手放すことに少なからず罪悪感を抱いていらっしゃいます。親類から非難されることもあれば、家の引き渡しなどで時間的余裕がなく、急いで整理して後で後悔される場合もあります。
しかし物には一定の使用期限があって、家も…
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