独裁者
ドラえもんの秘密道具に「独裁スイッチ」というものがある。気に入らない人を消すことのできる道具だ。ジャイアンに殴られそうになったのび太は、反射的にボタンを押す。そしてジャイアンが消えた場に立ちすくみ「たいへんなことをしてしまった」とつぶやく◆しかしジャイアンがいなくなった世界でも、別の子たちがいじめるし、先生や親から叱られもする。つい「誰も彼も消えちまえ」と口走り、スイッチを押してしまう。人影のなくなった町に出たのび太は「この地球がまるごと僕のものになったんだ。僕は独裁者だ、ばんざい!」と喜ぶ◆世界の大国で強権的な政治が目立つ。米国のトランプ大統領は関税をはじめ多くの新しい政策とともに、起業家イーロン・マスク氏の起用など人事でも注目を集める。その人員配置が的確かどうかの判断は後世を待つしかないが、もしこびる人ばかりを重用しているとしたら大きな問題だ◆独裁者になったのび太はというと、半日もすると一人では生きていけないことに気付き涙にくれてしまう。そこでドラえもんが現れ、実は独裁者を懲らしめる道具なのだと種明かしする◆諫言する人のいなくなったリーダーの末路は、歴史が多くの事例を示してくれている。第3次世界大戦の「戦前」といわれることの増えた今、為政者たちが独裁者にならないことを願わずにはいられない。(有吉英治)