AI時代の写経の効果 能力の減衰を防ぐ工夫(4月9日付)
2024年度になり大学生の提出リポートに、生成AIを利用したと思われるものが急に増えた感がある。部分的な利用にとどまらず、全体をAIにアウトソーシングしたと思われるものもある。
24年2月、都内の某私立中学で1年生に出された理科の課題に、半数以上が誤答し、その理由が生成AIの利用だったと判明した。誤答の内容は、唾液アミラーゼは、食べ物に含まれるでんぷんを分解し、胃で消化されやすい状態にするというものだった。
教師が調べたところ、食品大手「キユーピー」がホームページに載せていた記事をAIが利用し、それを生徒たちが疑いもなくコピーしたことが判明した。キユーピーはその後、指摘を受けて誤りを訂正したが、消化に関する基本的な話で誤りは分かりやすい。
これが宗教の歴史的事実に関する事柄や、現代における宗教の活動に関する事柄ならどうだろう。中等教育では比較的評価の定まった学説が教科書に記述されている。ところが大学教育の場合、教科書に当たるようなものがない専門分野も多数ある。また宗教に関わる科目を担当する教員の中には独自の価値観で講義する人もいる。
学生たちは出された課題にどう答えるべきか悩む。ネット情報を頼りにしてきた世代が生成AIに依存するのは、無理からぬ話である。このような状況に対し、教員側はどのように対応したらいいのか。AIには手に負えないような課題内容にすることも可能だが、これには教員側で、AIに蓄積されているデータについて、ある程度の知識が必要になる。新しい学説についてはデータとして入っていない可能性が高いから、それを問うような課題もAIを利用しにくくなるかもしれない。
最も簡単で有効なやり方は、教室でテーマを与え自筆で書かせることだ。スマートフォンの使用は禁止する。これは一石二鳥である。一つは生成AIへアウトソーシングできない状況を体験させることになる。もう一つは筆記能力の衰えを少しでも防ぐことだ。
手書きの機会が少なくなって、教員でさえ漢字がおぼつかなくなったと感じるようになっている。写経の類いは脳の前頭葉の働きをよくするという実験結果もあるが、自分の考えを自分の頭でまとめ、それを手で書き記す機会を大学でも増やすよう心掛ける段階に来ているのではあるまいか。
誰もが生成AIを使う時代が到来するからこそ、それによる知性や理性の衰えという負の側面に対して具体的な対処を考えていくことが必須になっている。