多文化共生時代 公教育における宗教(1月29日付)
昨年6月に米国ルイジアナ州で公立学校にモーセの十戒の掲示を義務付ける法案が成立した。これに対し保護者らが国教樹立を禁じた憲法修正第1条に違反すると提訴し、連邦地裁は11月中旬にこの法の一時差し止めを命じた。しかし今後、トランプ政権のもとでどう扱われるかは、不透明である。
この背景は「ユーチューブ」のRIRCチャンネル「米国ルイジアナ州の公立学校で十戒の掲示を一時差し止め~キリスト教福音派の政治的影響」が分かりやすく解説している。一連の出来事を受け12月に制作・公開された動画だ。
トランプ政権はキリスト教保守派の意向に沿った教育政策をとるのではないかとみられている。米国は政教分離が原則だが、内実は日本とはかなり異なる。最近の統計ではプロテスタントの信者数が減少傾向で、5割を下回った。多文化教育よりはキリスト教主義の教育重視に傾く可能性もある。
日本では、公教育において宗教を扱うことさえ腰が引けた状態がずっと続いている。現代宗教について基礎知識を与える必要性は、一部教員は感じているようだが、具体的方策はほとんど進展していない。政教分離原則ではないだろうが、宗教問題にはふたをかぶせるという戦後の姿勢は、基本的には変わっていない。
大学教育においては、2011年に宗教文化教育推進センターが設立され、現代宗教についての基礎的な知識を得る必要性への認識は少しずつ広がりを見せている。しかしそこで展開されている議論が、中等教育に広がっていく気配はまだない。
現代の様々な宗教問題に対して教育の場で、どのような基礎知識を与えるかについては国ごとに姿勢が大きく異なる。それぞれ宗教構成、宗教状況が異なることを考えれば、そのこと自体は当然である。各国の歴史や文化を踏まえた教育内容を考えていくことこそが大きな課題である。
だが多文化共生という目標は大筋としては、国際的な広がりが求められるものである。教育の場で特定の宗教を優遇して、別扱いする姿勢、あるいは宗教問題を一切斥ける姿勢をとっても、この目標から目を背けることはできまい。
イスラム圏では、イスラム教を特別扱いする方針を変えることは非常に困難であろう。政教一致が好ましいとする考えが支配的だかからである。これに比べ欧米や東アジアなどは、多文化共生の姿勢はとりやすい。世界の動向を見据えつつ、日本は宗教問題に適切な目を向けさせる教育方法を模索していくことが求められる。