孤独に苦しむ現代人 宗教性の働きに変化(1月1日付)
個人化が進み、地縁、血縁、仕事縁、信仰縁などが薄れてきた。仏教の葬祭に集まる人数が少なくなり、法事を行う回数も減った。大都市では宗教行事の簡略化が進み、人口減少が著しい地域は宗教施設の維持も困難である。世代を超え安定した人間関係が持続し、宗教・信仰の継承につながる。他者をケアし合う関係が自然に形成され、継続していくのが難しくなっているということでもある。
ケアし合う関係は典型的には親と子、きょうだい、夫婦、親族ということになるが、血縁関係を「ケアし合う関係」として期待する度合いが減っている。地域や職場のつながりも変わりやすく、先輩後輩関係、仲間関係も安定せず、移ろいやすいものになった。
これは長期的に続いているが、2020年代に入り、コロナ禍もあって、一段と加速した。おのずから人は孤立しやすく、孤独を感じやすくなる。これは傷つきやすいということでもある。しかし、人は孤立して生きていくのは容易でなく、孤独に苦しみ生きていくことにも限界がある。
傷つきやすく、孤独に苦しむ人間に支えを与えるところに宗教的なものの大きな働きがあった。人の弱さをしっかりと認識するよう勧め、弱い存在である人間が堅固な教えと儀礼に支えられ生きていくよう促すのが宗教伝統だった。
現代は宗教による絆が維持しにくい時代だ。人々が同じ儀礼や教義を共有し、集団としての結束を保っていくことが難しくなった。そこで、傷つきやすく孤独に苦しみやすい人間を支える新たな宗教性が目立つようになっている。
災害後に人々が祈りの場を共有する時も、特定宗教の枠の中で集まるわけではない。1985年8月12日の日航ジャンボ機事故の遺族らが集う御巣鷹の尾根や95年1月17日の阪神・淡路大震災の犠牲者を慰霊する行事は今も多くの人の関心を集める。がん患者や家族が集まり、がんに傷ついた人々を支え、がんで世を去った人々を偲ぶリレー・フォー・ライフの集いは日本では2006年に始まったが、今や全国での開催を目指すまでに発展した。死を巡る宗教性の形が変化してきた表れである。
痛みを共有し、ケアし合う新たな関係を築いていこうとする動きが様々な形をとって展開している。かつて宗教集団を通して行われていた祈りの場が、異なる形で行われる機会が増えた。宗教集団はこうした新たな宗教性の動きから目をそらすのではなく、それらの質を見分けつつ自らが尊んできた伝統と適切に関係付けるような柔軟性が求められている。