和解を促す力 宗教は平和を脅かすのか(5月24日付)
現代社会が直面する問題で、宗教の貢献を望む声は多い。世界各地の戦争や紛争に対して、関与する諸宗教が平和を求める声を上げ、平和構築に貢献することはできないものだろうか。ウクライナ戦争、ガザ攻撃、ミャンマーの軍事独裁政権など、いずれも宗教勢力が関わっているが、宗教教団や宗教リーダーの平和貢献というニュースはあまり伝わってこない。
ベルリンの壁崩壊に象徴される冷戦終結以後、宗教的アイデンティティーの相違が関与する戦争や紛争、あるいは分断が目立つ。湾岸戦争、9・11の米国同時テロ、イラク戦争、アフガン戦争、欧州各国のイスラーム過激派テロは宗教が関わっている。
ウクライナ戦争、ミャンマーの軍事独裁政権では、キリスト教、仏教、ユダヤ教も関わっている。ガザ攻撃ではイスラエルの背後に米国がいる。米国のキリスト教福音派にはキリスト教シオニズムがあって、キリスト再臨に先立つイスラエルの聖地占領をよしとする思想だ。インドはヒンドゥー至上主義政党が権力を握り、イスラーム教徒等へ圧迫が強まっている。
第2次大戦後から冷戦終結に至る時期は、戦争や紛争を招く軸は東西のイデオロギー対立と見られていた。一方に資本主義と結び付いた自由主義、他方に共産主義があり、両陣営の対立が平和を脅かす最大要因という見方だ。それに先立つ時期には共産主義と並んでナチスやファシストという全体主義イデオロギーがあった。
つまり、19世紀後半から20世紀の終わり頃まで、イデオロギーこそが平和への脅威と見なされる傾向が強かった。それに加えて民族や宗教の対立があるとしても巨視的には宗教はむしろ平和に貢献するとの見方が有力だった。ガンジーやキング牧師、マザー・テレサへの敬意もそれに呼応していた。
冷戦終結以後、「宗教と平和」の見方は大きく様変わりした。どうすれば宗教が平和に貢献できるのか。このことを示すのは宗教に対する信頼を回復する上で極めて重要な課題である。
平和に貢献する宗教団体や宗教者の活動が、実際に素晴らしい成果を上げたこともある。南アフリカのアパルトヘイトからの脱却において、キリスト教徒が果たした役割はよく知られている。日本の諸宗教団体が重要な担い手である世界宗教者平和会議も多くの活動を積み重ねてきている。平和こそ宗教が本来目指すものだという信念を見直すこと、そして戦争・紛争・分断に人々を向けてしまうような宗教の働きを抑える方向を指し示すことが求められている。