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瑩山紹瑾禅師の俗姓について(1/2ページ)

愛知学院大教養部教授 菅原研州氏

2024年11月5日 09時46分
すがわら・けんしゅう氏=1975年、宮城県生まれ。駒澤大仏教学部を卒業後、同大大学院仏教学専攻博士後期課程を満期退学。曹洞宗総合研究センター研究員・専任研究員を経て現職。専攻は、曹洞宗学を中心に日本仏教全般に関する思想研究。

曹洞宗で太祖と仰ぐ、大本山總持寺御開山・瑩山紹瑾禅師(1264~1325)の俗姓について、現在の宗門内では「瓜生氏」として紹介されることが多い。しかし、江戸時代までの史伝を見ていくと、他の見解も見られる。本論では、その様子を概観しておきたい。

江戸期の史伝には「藤氏」と記載

例えば、江戸時代以降に世に広まった瑩山禅師伝は、加賀芳春院の鳳山慧丹禅師が編集し、元禄4年(1691)に梅峰竺信禅師が跋文を著して開版された『總持両祖行術録』に収録される「諸嶽開山瑩山仏慈禅師行実」であろう。末尾に「侍者寂霊合掌稽首書」とあって、瑩山禅師からすれば孫弟子となる通幻寂霊禅師(峨山韶碩禅師の資、1322~91)によって著されたとはいうが、今日の研究を経た状況ではそのまま肯うことが困難な文脈も多い。同文では瑩山禅師の俗姓はわずかに「藤氏」とのみ示されている。

その後、元禄6年(1693)に編者・湛元自澄禅師が自序を著した『日域洞上諸祖伝』巻上「總持寺瑩山瑾禅師伝」、寛保2年(1742)に後序が書かれた嶺南秀恕禅師編『日本洞上聯灯録』巻二「能州洞谷山永光寺瑩山紹瑾禅師」項、三州白龍禅師が重輯した『大乗聯芳志』「二代瑩山紹瑾和尚」項、安永4年(1857)に編者・仏洲仙英禅師による凡例が記された『伝光録』版本の、乾巻巻頭に収録された「瑩山瑾禅師伝略考」などは、全て「藤氏」と書かれている。なお、明治期以降に『伝光録』はたびたび刊行されるが、それに「瑩山瑾禅師伝略考」もまた収録されていくため、「藤氏」という主張は継続されていた。しかし、明治43年(1910)に一喝社より刊行された『禅学大系祖録部』第三巻に収録された「伝光録解説」、昭和19年(1944)に横関了胤先生が岩波文庫より刊行した『伝光録』巻尾の「瑩山禅師年譜」では、「瓜生」という表現が見られるようになる。つまり、『伝光録』周辺の記載でも「藤氏」から「瓜生」への変化が見られるのである。

これは、明治期以降の瑩山禅師伝研究を受けたものだと理解出来る。

同時代的に複数の見解が存在

明治12年(1879)に曹洞宗務局より刊行された滝谷琢宗禅師(後に大本山永平寺六三世)『總持開山太祖略伝』では、現在の福井県越前市に所在する天台宗帆山寺で伝承されていた『瑩山大禅師由来記』『観音山略記』を紹介され、その中に「又由来記には国師は南條郡帆山村の郷士瓜生判官の子孫なり」という一節があることを紹介された。だが、滝谷禅師は決してこの記述を鵜呑みにされたのではなく、瑩山禅師と時代が重なる曹洞宗宏智派の別源円旨(1294~1364)に帆山寺の観音菩薩を参詣した記録(『日本洞上聯灯録』巻一など)があるため、混同された可能性を指摘されている。

ただし、この後は「瓜生判官」を「瓜生氏」と示しつつ、その是非について検討されていくようになった。例えば、總持寺独住第二世・畔上楳仙禅師は『洞上太祖円明国師御伝』において、「御俗姓は瓜生氏(南朝の忠臣越前杣山の城主瓜生判官保卿の家は我祖国師の同族たり、〈中略〉其先は藤原氏〈以下略〉)」とされている。これは、先に挙げた帆山寺の文書に「藤原朝臣瓜生判官」とあることに由来し、「藤原氏としての瓜生氏」の位置付けがなされた。

しかし、この見解には疑義も呈されるようになる。

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