PR
購読試読
中外日報社ロゴ 中外日報社ロゴ
宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
2025宗教文化講座
PR
2025宗教文化講座

私たちが直面する世界とその課題(1/2ページ)

評論家 與那覇潤氏

2025年2月21日 09時25分
よなは・じゅん氏=1979年生まれ。評論家。東京大大学院総合文化研究科博士課程修了。『中国化する日本』など話題書多数。公立大学准教授を病気離職の後、共著『心を病んだらいけないの?』で小林秀雄賞。
コロナ禍以降の世界の構図

今日の世界のおかしさを喩えた話として、こんな場面を想像してほしい。私自身が実際に、かつて体験した挿話にも基づいている。

あなたが精神的な不調を抱えて、メンタルクリニックを受診したとしよう。多くの場合、精神科医はなんらかの薬を出すだろう。しかし、いくら服用しても状態は改善せず、むしろ苦痛が悪化する一方であったとしよう。

あなたは当然、不安になる。薬が合っていないのではないか、診断された病名が違うのではないか、薬の副作用で新たな不調が生じている面はないか。そう疑って、インターネットを検索したり、一般向けの書籍に当たったりもするだろう。

しかしあなたが懸念を訴えても、医師がこのようにしか応じなかったら、どうか。

「症状がよくならないのは、薬の量が足りないからだ。改善しないなら前の倍飲み、それでも治らなければさらに倍飲めばいい。私は専門家だ。素人がネットで調べた程度でプロに逆らうな。私の方針を批判するなら誹謗中傷だ、名誉毀損で訴えるぞ!」

さすがにそれはない、とまともな人なら思う。しかし現に、まったく同じ構図がここのところ、ずっと世界で続いている。

はじまりは、2020年春からの新型コロナウイルス禍だった。欧米諸国が法的な強制と罰則をともなうロックダウン(外出禁止令)を敷いたのに対して、日本はあくまで自粛の要請に留まり、規制は緩かった。しかしウイルス流行の「第一波」と呼ばれた当時、日本の死者数は欧米よりはるかに低かった。

このことが意味するのは、「外出制限は有効な対策ではない」という事実だったはずだ。しかしその後、第二波、第三波……と続くにつれ、政府を支える専門家たちは、流行が収まらないのは「まだ自粛が足りないからだ」「もっともっと自粛すべきだ」と唱え続けた。

21年の春からワクチンの接種が始まると、彼らの理屈に「まだまだ打った人が少ない」「もっと速く、多く打たせろ」が加わった。mRNAという史上初のワクチンのしくみには不安も多く、実際に接種後の死者も出ている事実は、調べればすぐに分かった。しかしそうした違和感を表明する人には、「専門家を疑うな」「反ワクチンのカルトだ」「ネットに踊らされるバカだ」との罵声が浴びせられた。

22年の2月にウクライナ戦争が始まると、「専門家」のバトンは理系から文系へと渡された。しかし今度は、感染症医学に替わって国際政治学の識者が、連日メディアをジャックして同様のふるまいを示し続ける。

「まだ足りない」一本調子の論調

ウクライナがロシアに勝てないのは、「武器の支援が足りないからだ」「より強い兵器を、もっと多く送れ」の一本調子が、すでに3年近く続いている。実際にNATO諸国がウクライナに供給する兵器も、ミサイルから戦車へ、戦闘機へとエスカレートしてきた。しかし戦況は、ロシアの側に有利になる一方だ。

戦争が長引くほど、ロシア軍が前進し占領地を拡大する現状では、常識で考えてウクライナを応援する人ほど、「早く停戦した方がいい」と提言すべきだ。しかしそう主張するだけで、「お前は専門家じゃない」「ロシアのスパイなのか」と揶揄される状況は、開戦以来変わっていない。

日本独自の話題としては、22年7月の安倍晋三元首相の暗殺を機に、旧統一教会への社会的なバッシングが高まった。率直に言って、かつて行われた合同結婚式や高額の献金などに照らして、あまりよい宗教とは思えない。信じる人はむしろ、減ることが望ましい。

しかしどうやって、問題のあるカルトに入信する人を減らすかとなると、メディアの論調は「まだ叩き方が足りない」の一辺倒だった。もとより周囲からの偏見を覚悟で、異端的な教団に入った人が、法的な解散命令が出たところで信仰を棄てるはずはないが、そうなったら識者は「もっと弾圧を!」と叫ぶのだろうか。

本覚思想と法然および浄土宗教団 安達俊英氏2月17日

一、本覚思想とその評価 本覚思想とは「人は本から覚っている」という思想である。狭義的には「天台本覚法門」のことを指すが、広義にはそれと同様の内容・傾向を有する思想全般も「…

人に寄り添うとはどういうことか 北村敏泰氏2月12日

能登半島地震発生から1年がたった。昨年に現地での炊き出し活動に参加した際、我々の慣れない作業ぶりに、被災して自宅も親族も失った中年女性が助けの手を差し伸べてくれた。苦難の…

空海の曼荼羅思想 竹村牧男氏2月3日

自心の源底について 『大日経』は密教の覚りを「如実知自心」と示している。その究極を、空海は『秘密曼荼羅十住心論』「秘密荘厳住心」の冒頭に、次のように示している。 秘密荘厳…

第2次政権の宗教化? どうなる米の「宗教の自由」(2月19日付)

社説2月21日

最期のブッダ 無常の世に永遠の道を説く(2月14日付)

社説2月19日

能登で増える関連死 阪神大震災の教訓生かされず(2月7日付)

社説2月14日
このエントリーをはてなブックマークに追加