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本覚思想と法然および浄土宗教団(1/2ページ)

総本山知恩院浄土宗学研究所嘱託研究員 安達俊英氏

2025年2月17日 09時50分
あだち・しゅんえい氏=1957年生まれ。大阪大卒。インド哲学を専攻後、浄土宗総本山知恩院浄土宗学研究所助手となり、法然研究を開始。佛教大専任講師・准教授を経て2009年に退職。現在、知恩院浄土宗学研究所嘱託研究員、大阪市天王寺区・圓通寺住職。
一、本覚思想とその評価

本覚思想とは「人は本から覚っている」という思想である。狭義的には「天台本覚法門」のことを指すが、広義にはそれと同様の内容・傾向を有する思想全般も「本覚思想」と称される。

かつてはこの本覚思想を仏教思想の最高峰と高く評価することもあったが、1980年代頃から袴谷憲昭氏が「本覚思想は仏教にあらず」という本覚思想批判を繰り返されるようになって以降、多かれ少なかれ本覚思想は非仏教的な教えであると認識されるようになってきたといえよう。私も非仏教的とする立場から以下の論述を進めてゆく。

二、本覚思想の特色と非仏教的とされる理由

では、その広義の「本覚思想」とはどのような特色を持つのか、またなぜ非仏教的といえるのか。この点に関しては、必ずしも統一した見解があるわけではないが、諸先学の見解を参考としつつ、私なりにまとめると以下のようになる。

①本来的に覚っているので、迷いの世界と悟りの世界を峻別しない。むしろ「生死即涅槃」「娑婆即浄土」などのように、「即」という言葉で相反する概念が同置される。

それに対し、仏教は本来、苦に満ちた生死輪廻の世界(激流)を離れて苦を超越した境地(岸)に至ることを目指す。その両者は全く異なる境地である。激流=岸ということはあり得ないように。

②相反する両者でさえ峻別しないので一元論的となる。しかもその一なるものは自然と絶対性を帯びて「不二絶対」となる。真如・法界・法性などがそれに当たる。

一方、仏教は本来、現象世界を縁起によって説明し、バラモン教のブラフマンの如き一で真実なる存在を現象世界の背後に立てることはない。

③一元論的であるので、汎神論的傾向を有する。草木や山川などにも仏性があって成仏すると説く(「草木国土悉皆成仏」)。

これに対し、初期仏教等では器世間の成仏まで説くことはないと見なしえる。

④本来的に覚っているので、そのことに気付きさえすれば悟れる(「一念成仏」)。

⑤よって修行を軽視、もしくは否定する方向に向かう。

⑥観念論的(唯心論的)・抽象的・神秘思想的な教えである。

以上の3点についてまとめて述べると、そもそも仏教は修行という実践を非常に重視する。修行してこそ悟りに至れるからである。よって当然、修行なしで悟りに至れると説く一念成仏もあり得ない。また修行重視の故に実践的な教えということができる。

⑦現実肯定的で、煩悩や悪を安易に承認してしまう傾向を有する。愛欲を積極的に承認する玄旨帰命壇の教えなどがその典型といえる。

一方、仏教は戒律を見てもわかるとおり、悪を容認する教えでないことは明白である。「諸悪莫作 諸善奉行」が基本といえる。

三、法然教学の非本覚的要素

このような本覚思想は、法然在世中、日本の仏教界全体に相当に深く浸透していたといえる。そのような中にあって、田村芳朗氏が日本思想大系9『天台本覚論』(546頁)で説かれる通り、「法然は、絶対的一元論としての天台本覚思想のカバーをはずし、本来の相対的二元論としての浄土念仏を独立させた」ということができよう。では法然浄土教のいかなる要素が非本覚的といえるのであろうか。以下にその点を列挙する。

ⓐ迷いの世界と悟りの世界、凡夫と仏を峻別する
 天台本覚思想文献の『真如観』では「彼ノ土ノ弥陀如来・一切聖衆菩薩モ、皆悉ク我ガ身ノ中ニ坐マス故ニ、遠ク極楽世界ニ行カズ。(中略)我弥陀如来トソノ体不二ナリ」と説くのに対し、法然『逆修説法』六七日では「娑婆の外に極楽有り、我身の外に阿弥陀有り」というように娑婆と極楽、我と弥陀を峻別する。

また『要義問答』で「すべて厭ふべきは六道生死のさかひ、願ふべきは浄土菩提也」と説かれるように、法然はその娑婆を離れて浄土へゆくべきことを強調する。

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