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スピリチュアルケアの課題 異なる専門家との協働は

東京工業大教授 弓山達也氏

時事評論2024年11月13日 09時36分

11月2日、3日と、日本スピリチュアルケア学会の学術大会が東京大学で開催された。当事者研究の熊谷晋一郎氏の公開講演に始まり、五つのシンポジウムやパネル発表、17の一般発表など、盛りだくさんの内容で、筆者は2日目のシンポ「災害とスピリチュアルケア」の企画に関わり、司会として登壇した。

この学会は2007年に聖路加の医師の日野原重明氏を理事長、煉獄援助修道会シスターの高木慶子氏を副理事長として発足した。筆者は発起人会からのメンバーだが、長く幽霊会員で、設立10年で創刊された機関誌編集委員として参加するようになった。

会員数が数百人から始まった学会だが、今回の総会で900人と聞いて驚いた。発会当時は「空前のスピリチュアルブーム」(毎日新聞)と言われていた時期で、「スピリチュアル」を冠することで誤解もあった。現在、会員の多くは看護、医療、教育関係の実践者で、そこに大学の研究者や宗教者が参画している。

スピリチュアルケアは東日本大震災を機に広く知られるようになった。先立つ阪神淡路大震災はボランティア元年であるとともに、「こころのケア」が言われ始めたきっかけであり、東日本大震災では、さらにスピリチュアルケアに注目が集まった。12年からこの学会がスピリチュアルケア師資格認定制度を開始し、現在、有資格者は約300人にのぼる。毎年のように起きる大規模災害に、そのいわれなき苦しみに、地震に豪雨が続く能登半島で叫ばれるような「心が折れる」状況に、今後、スピリチュアルケアは求められることだろう。

ただ企画したシンポでは、反論の声があげられた。非会員のシンポジストで、本欄担当の一人の稲場圭信氏は、被災地に最も多く足を運んでいる宗教研究者だが、「被災者から『スピリチュアルケア』という言葉、ニーズを聞いたことがない」と断言する。彼の発言の意図は、心や魂だけのケアはなく、日常的で、継続的で、全人的な「共に」関わる支援が結果としてスピリチュアルケアにつながるというところにあるようだ。

かかる発言はいろいろな課題を提起している。稲場氏は全人的な関わりを「丸ごとのケア」と呼ぶが、その重要さとともに、ケアの現場では異なる専門家との分業と協働が不可欠で、スピリチュアルケアの位置づけを、例えば心理士とスピリチュアルケア師との役割はどう違うのか、明確にする必要があろう。

同様に稲場氏は学び、生き、支え、連携の輪を広げることの「共に」を強調する。ただスピリチュアルケアの有資格者は宗教者だったり、看護師・医師だったりと、いわゆる専門家だ。どうしても、そこには専門家と非専門家との分断や支援する/されるという縦の関係が持ち込まれやすい。本当に「共に」を実現するにはかなりの工夫が必要だ。

スピリチュアルケアが、専門家が考えるほど、人々のニーズがないとすると、それは適切な訳語がないからかもしれない。ヒーリングが「癒し」という訳語を得て市民権を得たように、腑に落ちる訳語の獲得がスピリチュアルケアの普及につながるに違いない。

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