部派仏教への視角
最近「部派仏教研究の現状と展開」と銘打った全5回の紙面連載を担当した。この分野の新進気鋭の研究者に寄稿を依頼したところ、一般向けにも分かりやすく、その上で最新の研究成果を反映した論考がそろった。読者からの反響も上々のようだ◆現在ホームページから5本全てが閲覧できるので、未読の方はこの機会にぜひ目を通してみてほしい。門外漢につきこれまで不明瞭だった「アビダルマ」についてのイメージが解きほぐされ、日本の近世倶舎学についての知見を通じて自らが「堕落史観」にとらわれていたと気付かされるなど、目が開かれる思いの連続だった◆失礼ながら「部派仏教」についてはこれまで、古代インドで小難しい論争をしていた諸教団、という印象だった。また人々の「原始仏教」や「部派仏教」への志向とは、自身の理想の仏教をその起源に対して投影するどこか郷愁めいたものに過ぎないと誤解していた◆いみじくも連載の最終回で八尾史・東京大准教授が「部派仏教研究は大乗と非大乗、インドとそれ以外といった枠組を相対化する契機をもち、複雑多岐にわたる仏教世界の様相を映し出す可能性をもっている」と示してくれている◆多様な研究視角と幅広い対象を有し、緻密な研究の蓄積と次々に発見される新たな資料の精査によって展開される、部派仏教研究の成果に今後も期待したい。(佐藤慎太郎)