地蔵尊の御利益
京都・山科の旧東海道沿いに「山科地蔵」の名で知られる地蔵尊を祀る六角堂がある。臨済宗南禅寺派の柳谷山徳林禅庵境内にあり、この寺は室町時代の1550年に、仁明天皇の第4子である人康親王の末葉、雲英正怡禅師により人康親王の菩提を弔うため開創されたという◆像高3㍍の地蔵尊は平安時代の初め、小野篁が一度冥土へ行った際に生身の地蔵尊を拝んでよみがえった後、一木から6体の地蔵を彫り出したうちの一つという伝説がある。平安時代末期に平清盛が西光法師に命じ、京都へ出入りする街道口の6カ所に分けて安置し、山科の地にも分祀されたと伝えている◆地蔵堂の扁額に地蔵菩薩本願経の由来を記し「私達の望むほとんどの幸せの形は、二十八種の御利益に含まれており、その多くは人智を超えたお地蔵様の智慧によって既にかなえられている」とある。二十八種の御利益とは衆生済度を願う地蔵菩薩の本願にほかならない。私たちが今こうして平穏に生きていられるのは、地蔵尊の本願に生かされているからだという諭しである◆それ故、お参りする時はまず感謝の気持ちを大きく起こして尊像と向かい合い、心を清浄にして「南無地蔵大菩薩」と7回呼びながら六角堂を時計回りに回り、正面に帰って再度礼拝するよう促している◆ここには、庶民の生活に根を下ろした信仰の要諦が見事に示されている。(形山俊彦)