人類共有の価値観 国連でも示された道理感覚(3月12日付)
ロシアのウクライナ軍事侵攻から3年の2月24日、国連総会特別会合が開かれ、ウクライナやEUなどが提出した、戦闘の停止とロシア軍撤退を求める決議案が採決された。日本など93カ国の賛成多数で採択されたが、米・露など18カ国が反対、65カ国が棄権した。
思い起こすのは2023年12月12日の国連総会緊急特別会合である。ガザ地区での即時の人道的停戦や、民間人保護に関する国際法上の義務順守、全ての人質の即時かつ無条件の解放などを求めた、エジプト提出の決議案が採択された。186カ国中、日本を含む153カ国が賛成し、3分の2以上の票を得て採択された。反対は米、イスラエルなど10カ国、棄権は英、独など23カ国だった。
ロシアのウクライナ侵攻とイスラエルのガザ侵攻の双方で、国連総会で米国は少数派であり、ヨーロッパやアジアやアフリカの多くの国々が侵攻側を戒める側に立って賛成し、国の数では反対を大きく上回った。二つの国連総会決議に共通するのは、軍事的に有勢な国(大国やその力に依拠する国)が一方的に軍事力を行使したことに、圧倒的多数の国々が反対している点である。
国連総会の決議はどちらの側に道理があるかを反映している。日米安保条約によって国の安全を維持している日本は、米国の外交や戦争に反対しにくいのだが、それでも米国とは異なる側に投票した。大国や軍事強国が力任せに領土や支配地域の拡充を行おうとしていることに、世界の人々は道理に従って反対しているのである。
このような道理の感覚は、人類社会共有の倫理観や価値観が存在することを示す。国際社会の秩序を支える法は限定的なものにとどまり、国連がそれを辛うじて補おうとするのが現在の人類社会の在り方だ。安全保障理事会が力になるべきだが、大国の利益に引きずられ、役割を果たせていない。
現代の人類社会を支えるのは、国の利益に基づく力の行使だけではない。強い国が自らの利益に基き一方的に軍事侵攻を行い多くの人命を奪い、領土拡張を行うようなことはあってはならない,という道理が一定の力を持っている。国連総会がそれを示しているのだ。
このような人類社会の合意は、宗教も大いに貢献して育てられてきた普遍的な人道的理法を背景に持つ。現代宗教はこうした道理の支配の維持と拡充に関与していくべきであり、実際、平和を志向する宗教者や宗教団体により、そのような方向への努力は続けられ、弱体化しているわけではない。