倫理資本主義
「資本主義の限界」が叫ばれるようになって久しい。格差の拡大、未開拓市場の枯渇、地球環境の破壊など問題は山積しており、資本主義に内在する根源的矛盾が表面化している◆ドイツの哲学者マルクス・ガブリエルは、危機を脱する方途として「倫理資本主義」という概念を提示している。資本主義に「倫理」を実装することで、種々の問題を解決に導けるという◆消費者が、より倫理的に優れた企業の商品を選択するようになれば、企業は倫理的な正しさを追求するようになる。倫理的な要素を尊重することが企業の持続的な成長につながるという理解が根付けば、環境汚染や労働問題も解決の方向に向かうだろう◆しかし倫理的な正しさとは何か、それを万人が共有することは可能なのかという疑問が残る。領土拡大の野心を持ち、人権問題を抱える大国が文化相対主義を盾に対話を拒否している現状を見ると、地球レベルで共有できる道徳的事実を構築するのは困難に思える◆そこに宗教の智慧を拝借できないか。大乗仏教の六波羅蜜は、あらゆる宗教と親和性があり、資本主義をより健全な方向に導く力を持っているのではないか。布施・持戒・忍辱・精進・禅定・智慧の精神でダルマの最大化を目指す価値観を広げる。7万を超える寺院を有する日本なら、仏教精神を実装した資本主義の実現も夢物語ではないはずだ。(奥西極)