性差への認識 曹洞宗の意識調査が示す現実(5月31日付)
曹洞宗宗務庁のSDGs推進委員会が宗議会議員や宗務庁役職員、青年会員ら宗門関係者を対象に実施したジェンダーに関する意識調査の結果、宗門内にジェンダーバイアス(性別・性差に由来する固定観念や偏見)が「ある」との回答が6割に上った(本紙報道)。教師資格を持つ僧侶の男女比は97対3と女性が極端に少なく、尼僧への日常的な差別を指摘する記述もあった。
出家主義を標榜する曹洞宗が、妻帯僧の妻を「寺族」と称し、出家の建前を維持しようとしてきた矛盾は早くから指摘されている。このことは、妻帯の公然化を促した明治政府による「肉食妻帯蓄髪等勝手たるべき事」という太政官布告が発布された当時から内包する問題である。一方、尼僧の結婚については一般に「あり得ないこと」と認識されているが、僧侶の肉食妻帯や蓄髪を許した明治5年の太政官布告の翌年、尼僧(比丘尼)の「蓄髪」「肉食」「縁付」「帰俗」も同様に勝手たるべきこととする布告がなされている。
曹洞宗のこれまでの歩みからすれば、宗門内の性差についての意識調査が実施された意義は評価されてよい。内容は出家の建前に踏み込むものではないが、男僧・尼僧の専門僧堂はあっても、尼僧による本山僧堂安居の道は閉ざされている現実や、公式非公式の行事で尼僧が「お茶くみ役」を担い、席次にも性差が及んでいる現実が調査によって公然化した。
戦後の曹洞宗で、尼僧として初めて宗議会議員に当選した小島賢道氏は、立候補を決意した趣意文の中で「今以て宗門行政の衝に当たる人達の中には、何ら目覚むることなく騒動宗の異名をたくましうして居りますが、事ここに到らしめた最大原因は宗門行政機構そのものが仏法必然の真理に逆らって全く尼僧の存在価値を無視した処にあると断言して憚りませぬ」と獅子吼している。
83歳になった小島氏は、永平寺の大遠忌法要で尼僧として初めて焼香師を務めた後、宗門の制度改革が進み、制度上の男女差別がほぼなくなった状況について「もう尼僧として許してもらえるものは許してもろた。これからは尼僧自身の向上、研鑽に道心を燃やしていくだけ」と語っている。
制度的な差別はなくなったと言っても、実際には男女の差別や偏見がないわけではない。日常的に男僧と尼僧の上下関係や立場の違いは依然として存在する。僧侶の配偶者である「寺族」の位置付けや役割など隠された差別についても問題を認識しなければ、制度の実効性は徹底しないだろう。