死刑制度を問う 仏教・浄土真宗の視点から…大谷光真著
「日本国が立憲主義、民主主義国であってほしいという前提」で死刑制度を問い、制度自体や日本の刑事司法の問題点、「宗教倫理からみた死刑制度」を論じながら死刑制度の妥当性を批判的に検証している。
本書での論考を通して著者は死刑制度が持つ様々な矛盾を明らかにしていくが「辻褄の合わない死刑制度」が存続する「本当の理由」として、死刑に内在する「見せしめ」の意味と、そこに「国家統治の基盤」の一つを置く国家の在り方を見いだす。刑罰で犯罪を予防できるなら統治は容易になる。しかし「成熟した国では、死刑制度によらずとも、安定して国家を統治できる」。
著者は浄土真宗本願寺派の門主を長年務めた宗教界の重鎮として知られるが、実は本書では副題が示すほど仏教・真宗の教えや人間観などを前面に押し出してはいない。それは「死刑を論じるためには、ただ法律論だけで済ませるのではなく、哲学・心理学・宗教等の人文学、国家統治についての政治学などが不可欠」との思いと関係しているだろう。
本書からは著者の死刑制度に対する強い問題意識が伝わってくるが、その筆致は一貫して冷静だ。「感情だけでなく、論理で考え、理解していただきたい」。宗教者としての良心や誠実さ、強靭な意思を感じさせられる。
定価2750円、春秋社(電話03・3255・9611)刊。