寺社への作品奉納にも取り組む若手日本画家 諫山宝樹さん(44)
今年放送のNHK大河ドラマ「光る君へ」の衣装人物画を担当するなど新進の若手日本画家の一人で、近年は寺社への作品奉納にも取り組む。宗教絵画の制作について、人々のつながりを促す「公共性」の働きを重視していると語る。
池田圭
時代劇で用いる美術作成からキャリアをスタート。
諫山 京都市立芸術大の大学院1年から京都・太秦の東映京都撮影所で様々な時代劇の襖絵などを描くアルバイトを始めたのがきっかけで、2015年まで勤めました。
時代劇の美術は消耗品で撮影が終わるたびに廃棄されるのですが、そこで多くの絵を描かせていただいたおかげで鍛えられました。「狩野派風に」とか「琳派風に」とか細かいオーダーがあり、同じ狩野派でも桃山期と江戸前期で違いがあったりするので、分かる範囲で調べてから制作していました。今でもほかの番組を見て「その虎の描き方はこの時代にはないな」と思うことがありますね(笑い)。
「光る君へ」の衣装人物画を担当された。
諫山 監督から発注があった各キャストの装束の色味を提案する仕事です。風俗考証の専門家の意見やキャストの年齢・身分・境涯などを総合的に考えながら人物図を描くのですが『源氏物語』は研究者やファンが多いので、できるだけ批判が寄せられないように気を使いました。
ただ結った髪型や中国風の装束、椅子に座るといった風俗だった奈良時代に対し、垂髪で畳に座る習慣になった平安時代中期の間に生じた変化に何があったのかが分からず、史料もほとんど残っていないので苦労しましたね。
寺社への作品奉納のきっかけは。
諫山 生國魂神社(大阪市天王寺区)のすぐ隣で育ったのもあって、お寺や神社の環境や美術がもともと大好きです。それで大徳寺(京都市北区)の塔頭・聚光院で狩野永徳作品の特別公開があった際にボランティアで受付や庭掃除をしたのがきっかけで16年に同院に庫裏の襖絵を奉納させていただくことになりました。
その後、聚光院ゆかりの僧侶が住職を務める宗鏡寺(兵庫県豊岡市)にも襖絵を納めました。同寺は「たくあん漬け」を考案したことで知られる沢庵和尚が再興した寺院。襖絵は「大根戯画」と題してダイコンを擬人化した構図にしたのですが、ご住職がその構図に独自のストーリーを考えて絵解きをされるのが印象的で、宗教美術は描き手の作為だけではなく、受け手によって育てられていくものでもあるのだと思いました。…
つづきは2024年11月13日号をご覧ください