殺生に寛容?な民主主義 問われる欧米の二重基準(9月4日付)
英国『エコノミスト』誌の研究部門など欧米の団体が、政治への市民参加や人権状況などから各国の民主化の程度を序列化する民主主義ランキングがある。これの評価対象に「人を殺さない」を加えられないだろうか。仏教で最も重要な「不殺生戒」は人類普遍でなければ真の平和は望めず、命の尊厳は人権の柱だから何ら無理な要求ではあるまい。パレスチナ自治区ガザへの攻撃をやめないイスラエルと軍事支援する米国やランク上位に並ぶ欧州主要国には不都合なだけの話だろうか。
ガザの死者は4万人を超え、そのうち1万6千人以上は子どもという。住民220万人を飢餓に陥れ、避難民施設や学校、病院を正視に堪えぬ空爆で破壊する。病院の保育器の電源が失われ、新生児が死んでいく。報じられるイスラエルの非道ぶりは、文明がたどり着いた人の世の最低限の節度を根底から覆す。ハマスのテロと人質奪取から始まったとはいえ、とても受け入れられるものではない。
イスラエルは、旧約聖書の「語り」とナショナリズムが一体化した特異な思想でヨルダン川西岸地区でもパレスチナ人を暴力的に排除し、入植地を広げている。米国でそれに共感する国民が少なくないのは、宗教的な親近感など根の深い関係があるようだ。だが「黒人の命を軽視するな(Black・Lives・Matter)」運動が盛り上がる国がパレスチナ人を狙う殺傷能力の高い兵器を平然と輸出する。その二面性は多民族の共生という希望を砕き、深い失望感を生む。
一方、人権を声高に説く欧州はガザ侵攻を批判するスウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさんを「反ユダヤ主義」と攻撃する。中でもイスラエルの安全保障を「国是」とするドイツは、気候危機に苦しむ人々もパレスチナ人も人権の重さは変わらないと主張する彼女に耳を貸さない。だが、ホロコーストの教訓はユダヤ人だけではなく、全人類を対象として初めて歴史は前に進む。ガザ侵攻の批判は許さない政策は、イスラエルと対立するトルコ系やアラブ系移民らへの人種差別にもつながっている。二重基準の罪は重い。
国際法も国際人道法も無視するイスラエルは『エコノミスト』誌のランクで米国に次ぐ30位。欠陥はあるが「中東唯一の民主主義国」だ。ドイツは12位、日本は16位だが、そんな順位より仏陀の「毒矢のたとえ」に学びたい。何はさておき、今は子どもらの命を残虐行為から守ることを最優先しなければならない。それができなければ、やがて暴力の支配が際限なく広がる世界が訪れるだろう。