災害派遣医療から学ぶ 被災地の多様なニーズに応えるには
大阪大教授 稲場圭信氏
DMATすなわち災害派遣医療チーム(Disaster Medical Assistance Team)の活動が社会一般に知られるようになった。DMATは医師、看護師、業務調整員で構成され、大規模災害被災地や多数の傷病者が発生した事故現場で急性期から活動する機動性と専門性を併せ持つ医療チームだ。
「Dr.DMAT 瓦礫の下のヒポクラテス」「TOKYO MER 走る緊急救命室」「コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命」などのテレビドラマが、災害や事故現場でDMAT隊員たちが命と向き合う姿を描いている。災害時や事故現場の緊迫感、限られた資源の中で懸命に患者を救おうとする医療従事者たちの姿は共感と感動を与えている。ドラマを通して災害時や緊急時の応急処置や医療体制を知り、災害に備えることの大切さを学ぶこともできる。
令和6年能登半島地震で阪大医学部附属病院高度救命救急センターのDMATが派遣された。筆者はDMATグループの報告会、訓練、研究会等に要請を受け参加した。DMATの活動というと、傷病者の重症度を迅速に判断し、治療の優先順位を決める「トリアージ」と緊急性の高い医療行為のイメージが強いだろうか。しかし筆者が参加した訓練では、むしろバックヤードの部分に重点を置いていたように感じた。
それは被災地医療機関への支援だ。被災した医療機関の機能回復を支援するために、医師や看護師が派遣され、診療活動や医療物資の搬送を行う、その情報収集や情報共有の訓練があってこそ、災害によって崩壊しかねない医療体制を維持し、被災者の命を守ることに貢献できるのだろう。
能登半島地震では石川県の要請に基づき県内外から延べ1139隊のDMATが派遣されたという。県庁に本部が設置され、被災地の医療状況を把握し、情報を共有して必要な医療資源の配分や他の機関との連携を図った。能登半島北部地域を中心に、被災した医療機関における診療や患者搬送等の支援をした。道路が寸断され孤立した集落へはドクターヘリなどを利用して医療提供を行った。
阪神・淡路大震災では、初期医療を提供できる体制が整っていなかった。行政の各機関、消防、警察、自衛隊と連携しながら救助活動と並行し、医師が災害現場で医療を行う必要性が認識されるようになった。この教訓を活かし、大規模災害発生時に迅速かつ効果的な医療を提供できる体制を構築するために、厚生労働省により日本DMATが平成17年に創設された。
災害時に専門性を活かして多様な医療ニーズに対応するDMATは、単独で活動するわけではない。行政の各機関をはじめ様々な組織と連携して非常時の活動を行う。例えば、急性期の精神医療ニーズへの対応をする災害派遣精神医療チーム(DPAT)や災害時の避難所等における被災者の健康管理を適切に行う保健師・災害時健康危機管理支援チーム(DHEAT)だ。
被災地には多種多様なニーズがあり、それに応じた支援活動が求められる。効果的な支援のため様々な組織が連携し、情報を迅速に収集・共有することが不可欠だ。今回のDMATの訓練や研究会で改めて日頃の訓練の重要性を認識した。