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核兵器廃絶 宗教の抑止力に期待 ― 生命への畏敬から考える(1/2ページ)

天理大教授 金子昭氏

2024年12月20日 11時11分
かねこ・あきら氏=1961年生まれ。慶応義塾大大学院博士課程修了。博士(哲学)。専門は宗教倫理学、宗教人間論研究。著書に『シュヴァイツァーその倫理的神秘主義の構造と展開』『現代における宗教批判の克服学』など。

アルベルト・シュヴァイツァーがノーベル平和賞を受賞した時、その受賞理由はアフリカでの人道的な医療活動での貢献にあった。しかし彼が1954年11月にオスロでの受賞講演に選んだテーマは「現代における平和の問題」だった。彼は、このテーマこそ、受賞講演に相応しい内容だと判断したからである。

ここでは人間性(ヒューマニティ)に立脚した平和論が述べられている。当時は東西冷戦の最中、際限のない核開発競争が行われるようになった時期で、この年3月にはビキニ環礁での水爆実験により、第五福竜丸が被ばくした。この時の水爆の規模は広島型原爆の千倍にも上った。

その後、シュヴァイツァーは積極的に平和について発言することが増える。58年にはオスロから「平和か原子戦か」というラジオによる連続講演を行った。彼は、繰り返される核実験に対して警告を鳴らし、ただちにこれを停止させるよう、核保有国(当時)の米英ソの3カ国による最高水準での折衝を行うべしと訴えた。彼の平和アピールは国際的な時局に対応した内容を有していた。

今年の日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)のノーベル平和賞受賞の受賞理由は、現時点での緊迫した世界情勢の中、日本で最も影響力のある核兵器廃絶団体であることに加え、なにより被爆者の当事者団体であることが大きかったと思う。実際、被爆者の平均年齢は85歳を超え、生き証人が語れる最後の機会になるかもしれない。だからこそ、その声をオスロから世界へと届けさせたいというノルウェー・ノーベル委員会の意図があったのではないだろうか。

核兵器廃絶の主張、世界平和の声明は、それ自体は単純かつ明快なものである。これを実効性のある形でいかに打ち出すかが肝腎である。ノーベル平和賞は、この賞を受賞させることによって、新たな国際世論を喚起する力を持っている。それはちょうど50年前の1974年に佐藤栄作元首相が同賞を受賞したことで、日本の「非核三原則」を世界に知らしめることになったのと軌を一にする。

恐怖による抑止力

核兵器については、しばしばその抑止力について言及される。核兵器を保有することで敵の攻撃を未然に防ぐことができるからだという。しかし敵もまた核兵器を持っていれば、相互の破壊力が均衡化される。この破壊力の均衡を極大化したのが、1965年に米国マクナマラ国防長官により打ち出された「相互確証破壊」(MAD)である。

MADでは、核爆弾の破壊力を表わす単位がメガトン(TNT火薬100万㌧)やメガデス(100万人の死者)などと数量化されて表現される。これはその略称通り“狂気”の沙汰であり、互いに対する恐怖で双方が持ちこたえるという、まさに恐怖の均衡なのである。さすがに米ソ間では“正気”を取り戻し、戦略兵器制限交渉(SALT)を始めるに至り、これは戦略兵器削減条約(START)へと受け継がれた。

注目すべきは、恐怖が平和の条件となるという基本的発想が力による抑止力論の背景にあるということだ。核戦争が始まれば、敵も味方も関わりなく、メガデス単位で生命が破壊され、守るべき国土はすべて焦土と化し、築き上げてきた文明は灰燼に帰す。確かにそれは戦慄すべき事態である。そして、その恐怖の事態を自ら体験した生き証人こそ、日本の被爆者であった。

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