傅益瑶作品集 一茶と芭蕉…傅益瑶著
著者の傅益瑶氏は、中国江蘇省南京市生まれの画家。水墨山水画の巨匠・傅抱石氏の娘で、1979年に国費留学の第1期生として来日した。
創価大で日本語を学び、81年に武蔵野美術大大学院、83年に東京芸術大の平山郁夫研究室で敦煌壁画の研究に当たり、日本画も学んだ。日本には五言絶句の漢詩よりも短い詩があると知った著者は、17音の中に無限の広がりを感じさせる俳句の世界に心を引かれた。
中でも「芭蕉の深遠な歴史観と生命観に心を強く揺り動かされた」という。2003年に『おくのほそ道』に詠まれた情景、全36点を水墨画で表し、23年に小林一茶の俳句から50点を描いた。本書では一連の作品群から67点を厳選し、句への思いをつづった文章と共に収録した。
一茶は1795(寛政7)年、芭蕉の死後100年余り後に大津市の義仲寺で営まれた時雨忌(芭蕉忌)に随喜し「義仲寺へ急候はつ時雨」の句を詠んでいる。著者は異なる時代に生まれた二人の俳人の間に精神のつながりを確信した。
一茶の句を貫くものが「恋心」であるなら芭蕉の句に通底するものは「風流」だとし、日本人の美意識を構成する大切な要素ではないかと記す。
定価4500円、鳳書院(電話03・3264・3168)刊。