全編解説 浄土論註 社会環境による苦悩解決への道…菱木政晴著

浄土真宗の七高僧の一人である中国・北魏の曇鸞の主著『浄土論註』を、近世の真宗大谷派を代表する学僧、香月院深励が著した同書の解説書『註論講苑』に依拠して全編解説した。著者によれば、現在の大谷派で主流となっている「近代教学」の解説とは異なるが『浄土論註』と親鸞独自の同書の解釈との関係を明確に説明したものは『註論講苑』以外にはあまり見当たらないという。
近代教学とは異なるポイントは①難行道と易行道②本願力回向と衆生の往還③現生正定聚と他利利他の深義。①②を読み解く鍵は「難行道を捨て去る決意」「五念門行の、とりわけその中の回向門行を修するのは、法蔵=阿弥陀如来であることを忘れないようにすること」とし、③は「今、如来から利他されて正定聚の位に就くことと、未来に娑婆に還って自身が他の衆生を済度すること、それぞれの行為主体と時点の違いをしっかりと整理して理解しなければならない」という。
その上で「阿弥陀如来の浄土」や「浄土の大菩提心」に論及して現実社会の不条理や苦悩の変革・解決に対する専修念仏者の在り方に論を展開し、「浄土教を、人びとに社会変革の希望を与えるもの」として描き出す。本論への賛否はともかく、近代教学批判の試みの一つとして注目される。
定価1万3200円、法藏館(電話075・343・0458)刊。