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遊んで、先生③ 「全員が同じ道」考え直すべき

ともだち診療所には箱庭のいろんな材料が並ぶ ともだち診療所には箱庭のいろんな材料が並ぶ

「ともだち診療所」には様々なおもちゃが置いてあり、箱庭療法の材料の木や車、人形なども並んでいる。ところが一人の中学2年の女子生徒は別の行動を見せた。その生徒はある日、急に歩けなくなり不登校になった。整形外科を受診したが異常はなく、親が紫英人院長を頼った。「好きなことは?」と聞いても趣味は特にないと答え、ほとんど話さない。だが箱庭用の砂箱を見ると、何も並べずただ砂に手を入れてじっとしていた。それだけで20分近く。「ああ、気持ちいい」。笑顔になった生徒と院長とが目でほほ笑み合った。生徒は1年近く通院して同じことを繰り返し、しっかり歩けるようになって高校へ進学した。

箱庭療法は子どもの心を解放し、自分で自分を癒やす力を掘り起こしていくのが目的だと紫院長は説明する。原因不明の腹痛を訴える中学1年の男子生徒は最初、庭に戦車や兵隊などを並べて、「戦いをしている」と力んだ。2回目は兵隊を2グループに分けて「挟み撃ち」と名付ける。次には自分たちの「日本軍」が「アメリカ軍」と戦うストーリーを組み立てた。そして話した。「英語塾の先生がアメリカ人なんだけど、さっぱり分からない」。それだけだが、その頃から徐々に学校へ行けるようになった。腹痛の時は保健室で休むなど自分をコントロールできるようになり、最後に作った箱庭には「救出」のタイトルを付けた。

「その子は学校や塾でのトラブルや悩みを自分から物語で口に出しながら、混乱していた心に整理をつけたのです。それでもまだ嫌なことはあるけど、自分で自分を“救出”することを知ったのです」。そう語る院長は、多くの子どもたちが親など周囲の目や自らの思い込みで目標を高くし過ぎていると見る。

学校は「行きたい」ではなくて、「絶対に行かなくてはならない」になっているのがほとんど。なので、行けずに失敗したら過大なプレッシャーになる。自分で自分を縛っているから、不登校の原因は「不明」になる。そして「良かれと思って言う親の言葉でこじれる場合も多いのです」。

もちろん、学校で学ぶ意義は大きい。しかし、ずっと以前の多人数学級時代には非常に低かった退学率が今の少人数学級でクラスに2、3人という現状に、「改善の余地はある」と指摘する。小学校では5、6年など高学年になると不登校が増えることに対して、「全員が同じ道をたどるというやり方を考え直した方がいい」。特に小中高のそれぞれ最終学年に皆が同じペースで同一レベルの到達を絶対視するのではなく、「ゆっくり行ってもいい、引け目を感じない教育システムが必要ではないでしょうか」。

背景にある世の中の構造が問題だという。経済社会を中心に効率重視が幅を利かせ、「役に立たない」ものが切り捨てられる。「他者と違うこと」「自由で個性的であれ」と言いながら、そのこと自体を均一に強いるというパラドックスの呪縛が若者をとらえていると識者は指摘する。卒業後に待ち受ける社会の重圧を親も子どもも先取りして萎縮してしまう。

「本当は、学校に『行ってもいいし、行かなくても、まあこんなもんでいいか』くらいに思うこと。のっけからそうはならないでしょうが、どこかでそれに気付くのが大事です」。学校側は「来なくていい」とは言えないが、「医者だからこそ言える」という紫院長の姿勢は、実は僧侶としてのたたずまいとぴたりと重なる。

(北村敏泰)

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