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「遊んで、先生」① 弱い立場同士で助け合い、大事に

まずは不登校児と遊ぶことを考える紫院長 まずは不登校児と遊ぶことを考える紫院長

福井県鯖江市に、医師として不登校問題に取り組む宗教者がいる。真宗大谷派円立寺住職で小児科・内科「ともだち診療所」の紫英人院長(49)だ。郊外の田園地帯の住宅地にある医院の診察室で、地域の患者の診療に忙しい紫院長は「医療として向き合うが、不登校は“病気”ではなく個性との間のグレーゾーンです」とにこやかに話す。

多くの青少年は最初は頭痛や腹痛など身体症状を訴えて来院するので診療が入り口ではあるが、内科とカウンセリングとを混合した独自のやり方を信念を持って行う。学校に行けずに苦しんでいる子どもとまずは仲良く打ち解けて世間話をし、遊ぶところから始めるのだ。

一緒に付いてくる親は多くが「何とか学校に行けるようにしてほしい」と言う。だが、それこそが子どもへの大きな圧力。「嫌な治療ではなく、その子が僕の所に来るのが楽しい、とならなければ駄目です」。手法もユニーク。例えば子どもの希望で「箱庭療法」をすることもある。ユング派の心理療法で、砂を敷き詰めた箱の中に模型の家や木、生き物などを好きなように並べて自分の世界を表現する技法。だが院長は「あくまで楽しい遊びです」と強調する。

身体症状への対処から心的な問題に無理なく入っていけるように敷居を下げ、「ちょっと風邪気味なのでついでに診てもらおうかな」などと相談しやすいように気を配る。不登校の子どもは通常、「自分は体が悪いだけで、心の病気ではない」と思っている。そして、学校に行けないのはなぜかと原因を探す。

ジェリービーンズのメンバーたちも「自分や親を納得させられる行かない理由を考えてばかりいて、それがつらかった」と話していた。それに対して紫院長は決して問い詰めることをせず、じっくり話を聴く。

不登校を訴えて来院する“患者”は月に5、6人。小中学生が多いが、成人で引きこもりに悩む人も来る。短くて1年、長い人は何年も通っている。頭痛で眠れない、朝起きられないなどの症状を院長が聞き、何度か通院しながらいろいろ検査をしても特に身体的異常がないと分かると、本人が心因性だと気付く。

そして「実はこれで学校に行けないのです」と自ら話しだすことも多いという。「それは、病気とまでは言えない」と重ねて強調する紫院長は「発達障害と一くくりにするのも間違っている。人は皆、一人一人違うのです」と言い、そのような患者にはあえて“病名”は付けない。その人その子の具体的な症候に応じたきめ細かい対応をするところに「皆、違っていい」という真宗の教えが見える。

紫院長がこのような医療をするようになったのは、20年ほど前に国立病院に勤務した際、上司の医師がやはり僧侶で箱庭療法なども用いながら患者をケアするのに接したのがきっかけだった。

開業後も、通常とは違う診療を「これで全部治るわけでは決してありません」と言うが、ほかの医療機関で効果がなかったという患者が訪れることもよくある。「僕の所は“最後の砦”かな。特にこれだというような治療もしないし、こちらからはあえて何も聞かないけど」

だが付け加えた「僕のような人間といると、『こんな人でも医者としているのだから、自分も生きていていい』と思ってもらえるのかも」という言葉には、苦難を抱える人に寄り添う宗教者たちに共通する思い、自らが「凡夫」であると自覚し弱い立場同士で助け合うという姿勢がのぞく。

(北村敏泰)

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