大国の領土的野心 人間の安全保障を今こそ(2月26日付)
トランプ氏が大統領に再任されて以来、アメリカファーストという言葉が4年ぶりに頭をもたげてきた。これは単にアメリカの国益を第一に優先することにとどまらない。アメリカが超大国なるが故に、他の国々の利益などお構いなしの強引な施策になってしまうのだ。トランプ氏は、他国の領土に関わる問題でもそれを主張するのだから、関係国はたまったものではない。グリーンランドを購入して自国の支配下に置くと発言したり、ガザ地区はアメリカが所有して再建すると提言したり、ウクライナ支援の見返りに同国のレアアースを要求したりと、他国の主権や住民の都合を全く顧みない発言の数々だ。
問題はアメリカだけではない。21世紀に入り、軍事大国が周辺諸国に圧力をかけ、領土的野心をあらわにしている。ウクライナに侵攻し多大な被害を引き起こしたロシアしかり、武力で威嚇しつつ海洋進出を進める中国しかり、これらの強国が国連安全保障理事会の常任理事国で、拒否権を行使できるとは恐れ入る。まるで19世紀の帝国主義の時代に戻ったかのような錯覚すら覚えてしまう。
どの国の住民も自らが生まれ育った土地で、安全で安定した暮らしを送る権利を自然権として有する。この権利は自国の権力によって侵害されてはならず、まして他国の侵略によって奪われるものであってはならない。それを基本的な人権として守っていくのが人間の安全保障という考え方である。どの国の住民もその土地に生きて暮らせることが最も幸せなのである。ごく一部の独裁国家は別として、独立した主権国家はいずれもこの統治原則の下に施策を行っている。どの国も基本、自国ファーストであって何も問題はない。
だが大国の自国ファーストは他国の主権や世界秩序を乱しかねない。宗教者がこれを止めさせるためには、諸宗教が共有する平和と共生の教えに立脚し、一人一人の人間を大切にすることを強調していくべきである。それはまさに人間の安全保障という考え方に他ならない。
宗教者はこの考え方をこそ、軍事大国の政治指導者たちに向けて積極的に主張すべきである。それに当たっては、宗教の持つ普遍的な愛と慈悲の人道的理想を伝えるための理論武装も必要だ。一方でまた、宗教者は国家間や国民同士の敵対心をなくすために、同じく教えによる人道的理想を説いていく役割がある。困難ではあるが、宗教者には人間の安全保障に関して、この“二正面作戦”が求められている。