ご縁を大切に 宿坊運営へ 宗務庁での経験を活用
京都市左京区・浄土宗金光院 戸川克彦住職
浄土宗大本山金戒光明寺(京都市左京区)塔頭・金光院は檀信徒以外にも開かれ、地域や社会に貢献する寺院を目指している。戸川克彦住職はイベントを通じて結んだ縁や同宗宗務庁に職員として勤めた経験を活用し「お寺をハッピーな場所にしたい」と熱く語る。
金光院は他の多くの寺院と同じく檀家が少なく、経済的基盤が脆弱だという。戸川住職は昨年5月まで宗務庁に勤務し兼職していたが「このままでは460年以上続く金光院の歴史を途絶えさせてしまうとの危機意識があった」と振り返る。
行き詰まりを打開し「開かれたお寺」を目指すきっかけになったのがおととし、境内の庭でホタルを数匹見かけたことだった。SNSで発信したところ好評で遠方から来る人もいた。今も交流のある写真家もいる。
一般の人により多く来てもらえるようにカフェを開いたほか、浄土宗開宗850年慶讃事業の寺院特別大公開「てらギャラ」にも参加した。「かつて寺は人々の活動の拠点だった。原点回帰し、いろんな人に来ていただきご本尊に手を合わせてもらえれば」と述べる。
新たな試みとして、京都という地域性を生かして宿泊事業を開始する。「小鳥のさえずりに心が安らぎ、癒やされる空間」の提供を目的に宿坊の改修事業を始めた。資金をクラウドファンディングで募り昨年末に竣工した。今後は境内の空き地を整備し、地域住民の憩いの場などにすることが夢だという。
3月から営業予定の宿坊では、季節に応じてホタルや紅葉などを楽しめる。組子格子も目玉で、3枚の格子戸を重ね合わせると「猪目文様(ハートマーク)」が浮かび上がる意匠を凝らした。
「業者と相談し、話題になりそうなものを探す過程でハートの形になったが、目指しているお寺と合致した。カップルなどにお祝いの日に来てもらえるとうれしい」とほほ笑む。
宗務庁での経験が自坊の活動に生きている。寺院の現状を把握する中で、寺のあるべき姿を思い描けた。「27年間宗務庁で勤めたからこそ、寺の経営や取り組みを考えられた。学びも多く、現在の寺づくりにつながっていると思う」
ホタルの観賞から始まった交流で人の温かさを体感した。「今までの活動のご縁を大切にし、共に運営に取り組みたい」と話す。
(椎葉太貴)