孤立出産女性への支え まず事情を聴くことから(7月19日付)
様々な事情で産んだ子を育てられない母親のために赤ん坊を預かる「こうのとりのゆりかご(通称 赤ちゃんポスト)」や前段の分娩段階で個人情報を病院だけが把握して行う内密出産を国内で初めて導入した熊本市の慈恵病院が主催し孤立出産問題を考えるシンポジウムがこのほど同市内で開かれ、示唆に富む論議が繰り広げられた。
2日間にわたり、いかに嬰児遺棄を防ぎ子供と母親の命を救うかをはじめ、養子縁組や子の出自を知る権利の保障など幅広い課題について、各国の例も含めた報告と議論が続いたが、中でも“出発点”である予期せぬ妊娠や経済的理由などによって養育が困難で苦悩する女性をいかにサポートするかが焦点になった。
現状、日本では法的制度はなく、相談施設や若干の支援制度はあっても、本人の申請によっていくつかメニューのどれかに当てはまって初めて対象となる仕組みなので右往左往する。研究者の報告では、内密出産をはじめ孤立妊娠女性への支援が整備されているフランスでは「誰も独りにさせない」との指針の下、公的機関が個々の女性にまずその人がどう困っているかを聞き取り、対処する。
「ポスト」の先進国であり、行政による妊娠相談機関や出産への支えも確保されているドイツでは、「誰にでも起こり得る困難だから」というのが窓口を広げる理由となっているという。韓国では、嬰児遺棄など不幸な事例が相次いだ背景から社会的機運が高まり、やはり綿密に設計された全国的な公的相談機関、内密出産制度が法制化され、今年から施行されている。
フランスでは困っている女性は必ず助かると分かっているので相談に向かい、充実した制度で「大丈夫です。一緒に解決していきましょう」と支えの手が差し伸べられるので「ポスト」もない。対して日本では、助かるかどうか不明で相談しても仕方ないと諦め、出産を迎えてパニックになる。
社会的困窮者の支援を巡り、活動を続ける牧師が「助けてと言えた時が助かった時」と述べているが、これらから分かることは、妊娠出産について不安を抱えて孤立する女性の事情をまず聴き寄り添うことが、結果として子と母の両方の生命を救済することになるということだ。
その担い手は直接に医療者や福祉関係者にとどまらない。韓国では以前からキリスト教会などが多くの「ポスト」を運営しており、クリスチャンが多いので寄付も含めた支持も多く、それが法制化を後押ししたという。我が国でも宗教者にできることは多いだろう。