小惑星リュウグウの試料を解析した 中村栄三さん(68)
2020年にJAⅩA(宇宙航空研究開発機構)の探査機はやぶさ2が小惑星リュウグウから持ち帰った試料を解析した。「生命の起源に迫る」と大きな注目を集めるなど、惑星物質研究の分野で世界をリードする。激しくなる一方の宇宙開発には宗教的な思想が重要だと強調する。
河合清治
はやぶさ2がリュウグウから持ち帰った試料の解析結果から何が分かりますか。
中村 試料解析は地球を含む太陽系の起源や進化、さらには生命の起源となった物質を物理化学的に解明することが目的です。はやぶさが2010年に様々なトラブルを乗り超えて小惑星イトカワのサンプルを採取し、19年にはやぶさ2がリュウグウの地表に2回タッチダウンし、地表付近と弾丸を打ち込んでできた人工クレーターから地下物質試料の採取に成功しました。
試料は八つの初期分析チームで解析され、私たちには16粒約55㍉㌘の試料が分配されました。世界に類を見ない「地球惑星物質総合解析システム(CASTEM)」で総合的かつ多角的な解析を行った結果、46億年前の太陽系形成前から現在に至る複雑な物理化学過程の証拠を保持していることが分かりました。
生命の源となるタンパク質の形成に必要な11種を含む23種のアミノ酸や多くの有機物が検出され、試料が含む粘土や鉱物(主に磁鉄鉱)の形態やサイズが整然としていることなどから、リュウグウの起源は「氷天体」であり、彗星の核として現在の形になったと考えられます。これらの試料は隕石などとは違い、地球の物質に汚染されていない宇宙から来た純粋なものです。
今回の解析結果から生命の起源が分かりますか。
中村 試料の解析結果を発表すると「生命の起源に迫る」などと大きな注目を集めました。しかし、謎はまだまだ多く生命の起源の解明には程遠いと思っています。人類はまだ実験室の試験管で生命を作り出すことさえできていません。
生命の起源となるアミノ酸は宇宙から来たとは限らないし、地球ができた頃は大気は薄く、地表付近までプラズマが到達しアミノ酸が合成される可能性もあります。今回分かったのは生命の起源物質が地球以外の宇宙にもあり、今後、生命の起源を議論していく上での一つの「物差し」ができたという感じです。
地球以外にも生命が存在する可能性があるということですね。
中村 そうです。私たちだけのわけがありません。今後、近い所では火星をしっかりと見ていき…
つづきは2023年11月8日号をご覧ください