山上被告のツイートから事件に迫った政治学者 五野井郁夫さん(44)
安倍晋三・元首相を銃撃した山上徹也被告(43)が2019年から事件直前の22年6月まで投稿したツイート1364件を解析した。山上被告が「失われた30年の犠牲者」との見方を示し、事件はどうすることもできない境遇を自己責任論で突破しようとした末の悲劇だった可能性を指摘する。
岩本浩太郎
山上被告のツイートを解析しようと思われたのはなぜですか。
五野井 安倍元首相銃撃事件が起きた直後、これは一種のテロであり、民主主義の敵だという報道が多くなされました。しかし、犯人の風貌からしてむしろ何も失うものがない人が一種の「無敵の人」と化して起こした凶行との印象を受けました。
本当のところはどうなのかと思い、山上氏のツイッターアカウント(「silent hill333」)のツイートを全て読み込むことにしました。分析してみると、もちろん主たる犯行動機は旧統一教会に対する恨みです。家族や自分の人生をずたずたにされたことへの復讐として犯行に至ったことは明らかでした。ただ、同時に彼はロスジェネ世代であり、失われた30年の犠牲者だったのではないかと思いました。
どういうことですか。
五野井 旧統一教会に人生を台無しにされた被害者は事件以前にも無数にいます。しかし、誰一人として山上被告のような犯行に至らなかった。犯行を思いとどまらせるセーフティーネットのようなものがあったからだと思うんです。それは様々な人間関係かもしれませんし、家族かもしれない。あるいは仕事だったかもしれません。裏を返せば、山上被告にはそういう社会的紐帯がほとんどなかった。犯行直前に手紙を託したのは身近な人ではなく、旧統一教会の問題を追い続けていたジャーナリストでした。
私もロスジェネ世代ですが、この世代の特徴は自己責任論が強いことです。自分がうまくいっていないのは自身の努力が足りないせいだと思い込みやすい。山上被告は優秀な高校を卒業し、難しい資格を次々と取っていく。家族を救うために自身に保険金をかけて自殺未遂まで起こしている。その行動力故に手製拳銃の作り方を自分で調べて実行してしまうところにたどり着く。全て自分一人で抱え込み、一人でできてしまうところに彼の悲劇性を感じざるを得ません。
山上被告のツイートにはエリートに対する期待を感じさせる箇所がありますね。
五野井 エリートに対する期待はあったでしょうね。22年1月に「恵まれた者、…
つづきは2023年9月13日号をご覧ください