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親鸞聖人の著作に見られる差別言辞 ― 価値観の時代的変遷において問われる課題(2/2ページ)

仁愛大学長 田代俊孝氏

2025年1月9日 09時26分

◆盲冥:日常よく用いる『浄土和讃』の「弥陀成仏のこのかたは/いまに十劫をへたまへり/法身の光輪きわもなく/世の盲冥をてらすなり」の「盲冥」に

①「めしゐのくらきとなり」〔盲人の暗きとなり〕(国宝本・『定親全』2和讃篇―8)

②「めしゐくらきもの」〔盲人、暗きもの〕(文明本・『定親全』同上)

③「めしゐたり くらし」〔盲人たり、暗し〕(親鸞の再稿本で顕智書写本の左訓)と左訓が付されている。「盲冥」という言葉は、もともと『讃阿弥陀仏偈』の「法身光輪徧法界 照世盲冥故頂禮」(『真聖全』1―350、『浄土和讃』巻頭にも同文引用『定親全』2和讃篇―4)に記されており、親鸞聖人はそれに拠ったと思われる。また、『往生礼讃』にも「衆生盲冥にして覚知せず」(原漢文『定親全』9加点(4)―188) と記されている。

◆瘖聾:『教行信証』「化巻」の『弁正論』(法琳撰)の引用文中「なお道を瘖聾に謗る、方を麾いて遠邇を窮むること莫れ」。(原漢文『定親全』1―370)の「瘖聾」という言葉に、「おし、みゝしゐ」と左訓を付けている。

◆矯盲:同じく『教行信証』「化巻」の『弁正論』(法琳撰)の引用文中、「虚を求めて実を責めば、矯盲の者の言を信ずるのみと」(原漢文『定親全』1―362)の「矯盲」に「いつわり、めしひ」と左訓が付いている。

性や職業に関する差別言辞

◆変成男子:次に、性差別については、『浄土和讃』の「弥陀の大悲ふかければ/仏智の不思議をあらわして/変成男子の願をたて/女人成仏ちかひたり」(『定親全』2和讃篇―38)がかねてより問題化されている。

◆屠沽の下類:また、職業差別については「屠沽の下類」という言葉がある。『唯信鈔文意』には「屠はよろづのいきたるものをころしほふるものなり。これはれうしといふものなり。沽はよろづのものをうりかうものなり。これはあき人なり。これらを下類といふなり」(『定親全』3和文―168)と述べられている。

『教行信証』「信巻」所引の元照の『阿弥陀経義疏』の引用文には「これすなわち具縛の凡愚・屠沽の下類、刹那に超越する成仏の法なり。「世間甚難信」と謂うべきなり」(原漢文『定親全』1―135)とあり、また、同書所引の『聞持記』に「屠沽下類刹那超越成仏之法可謂一切世間甚難信也。屠は謂わく殺を宰どる、沽はすなわち醞売、かくのごときの悪人、ただ十念に由ってすなわち超往を得、豈に難信にあらずやと」(原漢文『定親全』1―136)。さらに『阿弥陀経集註』所引の大智律師の『疏』(『阿弥陀経義疏』)には、「唯決誓猛信を取れば、臨終悪相なれども十念に往生す。此れ乃ち具縛の凡愚・屠沽の下類、刹那に超越する成仏の法なり。謂うべき、世間甚だ信じ難きなり」(原漢文『定親全』7注釈篇(1)―262)。とあり『唯信鈔文意』の文はこれらに拠ったと思われる。

今日的テーマに

これらの語は明らかに、身体的、職業的差別の意味を含んだ語である。これらの語をどう扱うべきか。これらの語の多くは、親鸞以前の経・論・釈に拠る言葉だが、今は親鸞聖人自身の言葉として記されている。価値観の時代的変遷によって、かつてはそうでなかったかもしれないが、今日では差別的言辞と考えられる。

しかし、ここで問われるべきは、本来これらの語が今日では差別的言辞であるにも関わらず、その課題性に気づかず、無視している我々の現実の在り方である。まずは、この言葉を無自覚に読んでいる読み手の意識が問われるのであり、読み手が差別的言辞として意識していなければならない。

これらの言辞を自らの考え、言葉として用いるところに我々の差別意識が現れる。これまで課題にしてこなかった差別的体質が大いに問われる。

そして、これらの言葉によって今日的課題として差別意識を問い続けねばならない。その意味で考えて、これらの言葉を聖教から短絡的に「削除」するのではなく、『聖典』などでは差別意識を問う注釈を付すべきであろう。『親鸞 左訓・字訓・語訓辞典』では、これらの語に解説を加えて、意識喚起の文言を付した。

筆者の意図するところは、これまで見過ごしてきた親鸞聖人の著作の中の差別言辞をとおして、自身のみならず教団の差別意識を課題化することである。浄財を用いて研修を重ねながらも外圧を受けないと差別が課題化されない所に深い悲しみを感じる。

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