反攻に出た統一教会 執拗なスラップ訴訟で攻撃
北海道大大学院教授 櫻井義秀氏
3月26日、東京地裁は旧統一教会に10万円の過料を科す決定を出した。文部科学省は質問権に基づく調査を計7回、500項目以上を質問したが、回答しない項目が多数あった。教団側は質問権の行使自体が違法であり、民法上の不法行為は法令違反に含まれないと反論したが、却下された。
この判決と現在東京地裁で審理中の解散命令請求は内容が重なっているので、解散命令が年内にも出される可能性がある。しかしながら、教団活動が「著しく公共の福祉を害する」と認められ、宗教法人として解散させられたとしても、被害の回復には程遠い現状がある。
全国統一教会被害対策弁護団は、149件約46億円の被害事件を集団交渉で教団に申し入れているが、教団は個別対応を主張して受け入れず、東京地裁で129件の集団調停が進行中である。まとまらなければ訴訟を起こさざるを得ず、一つの事件だけでも数年の裁判を要する。高齢の被害者と家族に残された時間と費用はない。
仮に、解散命令が早期に最高裁から出されれば、宗教法人の資産は関係者の間で清算されることになる。しかし、それまでに集団交渉の被害者たちが裁判で勝訴していなければ、債権者として認められない。しかも、被告の宗教法人が解散し、関連する数十の団体が債務継承の団体として認められなければ、被害は誰からもどこからも弁済されないことになる。
こうした幕切れを許さないためには、財産保全と継承団体を認定する立法措置が必要なのだが、昨年12月に成立した財産流出抑止のための特例法では不十分である。新法が成立する度に政治家もメディアも被害救済が進むイメージを出すのだが、そうではない。
そのうえ、教団は被害対応に尽力する個人にスラップ(嫌がらせ)訴訟を仕掛けている。ワイドショーで発言した八代弁護士、木村弁護士、紀藤弁護士、有田芳生氏や鈴木エイト氏などのジャーナリストに名誉毀損で、それぞれ2200万円、謝罪放送、謝罪広告を請求した。また、教団関連団体との断絶決議や公共施設を貸さない決定をした大阪市、富田林市、富山市、北九州市、福岡市などにもそれぞれ350万円の損害賠償請求訴訟を起こした。請求はすべて却下されているが、地裁から最高裁まで費やす時間と経費がばかにならない。
私も、昨年刊行した中公新書の『統一教会―性・カネ・恨から実像に迫る』に対して、半年来、匿名の統一教会宗教二世から剽窃・研究不正のクレームをネット上にあげられ、出版社や私の所属学会にも送りつけられた。それを受けて教団側の中山達樹弁護士が、「櫻井義秀ヘボ教授に死刑判決が下りました~お前はもう死んでいる」という誹謗中傷をブログで書いている。
今年の2月に私は『明解 統一教会問題』を刊行した。3月末、『月刊住職』を発行する興山舎宛に、私への請求書を入れた化粧品一式が届けられた。
報道が一段落した裏で、教団は着々と反転攻勢を仕掛けている。宗教とは何か。信仰とは。現場で考えることは多い。