肯定感の喪失
「蛙化現象」という心理学用語は、デジタルネーティブと呼ばれる10代から20代半ばの「Z世代」が多用して知られるようになった。魔法をかけられ醜いカエルになった王子が再び人間に戻るというグリム童話に由来する。好きな人の言動の理想と現実のギャップに気持ちが冷めること。好意を抱く相手が自分を好きになると、逆に嫌いになってしまうといった現象だ◆こうした心理の背景に自己肯定感の喪失がある。「こんな自分を好きになるなんて」と感じて嫌いになる。いいなあと思っていた人のちょっとした仕草に気持ちが冷めるなど◆Z世代が自覚する蛙化現象は時代や社会と深く関係している。デリケート(繊細)でセンシティブ(神経質)な感受性を持つ年頃にインターネットと共に育った世代は、自分より優れていたり、いい生活をしたりしている人をSNS上で見る機会が多いから、高い意識で社会活動をしている人でも「私なんてまだまだ」と謙遜してしまう◆いつも他人にどう見られるかを意識し、目立つことを避け、調和を大切にする。理想に近づけないと落ち込んでしまう。その積み重ねで精神を病む人も少なくない◆「他人の評価が自分の幸せの軸になるとすごく苦しい。いろいろな物差しで見られるようになれば、もっと伸び伸びと暮らせるはず」というZ世代の言葉には、世代を超えて心に訴えるものがある。(形山俊彦)