平和賞受賞の意義 核使用の「タブー」を護る(10月16日付)
広島と長崎への米軍原爆投下の生存者で構成する日本被爆者団体協議会(以下、日本被団協)に2024年度のノーベル平和賞が授与されることが11日、ノルウェー・ノーベル委員会から発表された。日本からのノーベル平和賞受賞は、東西冷戦のさなか「非核三原則」を提唱した佐藤栄作・元首相以来2件目で50年ぶりである。
ノルウェー・ノーベル委員会によると、「核兵器の使用に対するタブーが圧力を受けている」ことを重視し、この「草の根団体」の「核兵器のない世界を実現するための努力」に対する授賞を決めたという。
核廃絶・軍縮では佐藤氏以後も、1985年の核戦争防止国際医師会議、90年のミハイル・ゴルバチョフ氏、95年のパグウォッシュ会議がノーベル平和賞の授賞対象となり、直近では2017年の核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)が受賞したことは記憶に新しい。
核兵器廃絶への多くの人々の努力にもかかわらず、第2次世界大戦後、核軍縮は具体化の見通しがついていない。それどころかロシアによるウクライナ侵攻の長期化で、プーチン大統領は核兵器使用の可能性を示し、ウクライナとそれを支援する西側諸国を恫喝している。イスラエルの軍事行動拡大などでも、「核使用」のタブーは危機に瀕している。
日本被団協への平和賞の授賞理由として、ノルウェー・ノーベル委員会は「核兵器のない世界を実現するための努力と、目撃証言を通じて核兵器が二度と使用されてはならないことを実証したこと」を挙げている。
戦術核兵器の使用を想定した軍事演習などで脅しをかけるロシアの行動は、核抑止力の概念を利用したものだが、理性のタガが外れ、「核のタブー」を犯して、人類の未来を破壊してしまう恐れは否定できない。
同委員会は、「日本被団協やその他の被爆者代表が歴史の証人として、個人的な体験談を語り、自らの体験に基づいた啓発キャンペーンを展開した」「その並外れた努力は、核のタブーを確立するのに大きく貢献した」と評価している。
しかし委員会が指摘するように、いつの日か、歴史の証人としての被爆者は私たちの間からいなくなる。「人類の平和な未来の前提条件である核のタブー」を維持するため、先人の経験・記憶を語り継ぐ役割は新しい世代に委ねられる。宗教者は、そうした使命を担い続ける存在として期待されるに違いない。