笑いを潤滑油に社会問題を考えるユーチューバー 榎森耕助さん(35)
赤いTシャツとふんどし姿で、沖縄の海で社会問題への思いの丈を叫ぶ。「無関心と沈黙が力の不均衡を温存する。差別は社会の中に組み込まれている。構造的な差別に無自覚に加担しないよう自分でチェックすることが大切」と話す。知ること、声を上げることの大切さを動画で発信する。
磯部五月
入管法、LGBTQ、教員の働き方まで「ユーチューブ」での絶叫が見る者の心をつかみますね。
榎森 「お笑い」を潤滑油に社会問題を伝えたいと考え、一つのキャラクター「せやろがいおじさん」をつくろうと、2017年頃から始めました。赤ふんどしと大きなテロップ、海でドローン撮影という映像が珍しかったのかもしれません。政治的な話題をネタにした当初は「色がつくからやめておけ」など、それが悪いことかのように方々からお叱りを受けました。
政治的な話題で衝突が起きるのはコミュニケーションにエラーが起きている状態。実はその話題の背景に利害関係が存在することもありますし、当事者だとしたら精神衛生を保つために「黙っていた方が得だ」と思うかもしれません。しかし今、現実に起こっていることの問題点に沈黙するのは、力の不均衡を温存し、力の強い側に加担することになります。
そして権力の側は「やりたいようにできるのだ、国民はすぐ忘れる」と考える。近年、政権は悪い意味で成功体験を重ねていると思います。
インターネット上で誹謗中傷に遭うこともありますか。
榎森 たくさん寄せられる声は玉石混交で、一つ一つ見ていられないというのが正直なところです。普段、インターネット上で活動している僕ですが、ネット空間では他人に口汚い言葉を投げ掛ける人もいます。腰を据えた対話には不向きで、現実世界よりも一段劣化した言論空間というのが現実です。本当に大切な意見は、自分が築いてきた人間関係の中で身近な人が直接に伝えてくれます。
昨今は「いいね」の数やフォロワーの増減に一喜一憂し過ぎではないでしょうか。「自分の意見は、たくさんある意見の一つ」であり、僕の発言は個人の意見にすぎない。しかし新聞などのメディアは組織の中にチェック機能があり、力を持っています。だから為政者や力の強い人に忖度してはならない。
人々は深刻な話題よりも「大谷翔平がホームランを打った」など楽しいニュースの方が見たい。その方が視聴率やビュー(閲覧数)が稼げる商業主義とメディアの問題もありま…
つづきは2023年8月9日号をご覧ください