信仰の場、千年先まで
総本山長谷寺 川俣海淳化主(83)
真言宗豊山派総本山長谷寺(奈良県桜井市)化主・宗派管長として6月14日に入山した。同寺の財務執事、法務執事を歴任し寺務長を2期務め、実務を熟知する。
生まれは京都府長岡京市の古刹、乙訓寺で、自坊は西国三十三所第7番札所の岡寺。若い頃は木造建築を学び、工務店で働いた。その経験から寺の設計にも明るく、長谷寺本坊前の閼伽井舎を新築した際は梁を用いて主柱を立てない屋根の構造を自ら提案した。
人生の転機は1966年。25歳の時に病で仮死状態になり、病室で眠る自分を両親と医者が囲み「もうアカンな……」と話す姿を天井から眺める不思議な体験をした。その時「跡継ぎがいなくなったら、お寺をどなたかに譲ってせめてもの供養に灯籠を作ろう」と母の声が聞こえた。
その後、奇跡的に一命を取り留め、目覚めた時には「長谷寺に行こう」と心が決まっていた。2年の修行の後、自坊に帰ると、本堂に両親の名前が刻まれた灯籠があった。自分が見た場面は夢ではなかったと気付いた。
後に慈雲尊者の言葉「病はこれ仏道に入るの門なり」を知り、僧侶になった自身の経験を重ねた。
長谷寺はボタンで有名だが、近年手掛けたあじさい回廊も好評で、若年層や海外からの参拝者も増加した。
「任期の4年は1300年の歴史から見れば点に過ぎないが、ないとつながらない。花に癒やされ、観音様から慈悲を受ける場、人々の信仰の場である長谷寺を千年先まで継承していきたい」と話す。
(磯部五月)