“かかりつけ葬儀社” 人生のステージに支え(10月11日付)
葬儀をどう位置付けるかは宗教者にとって重要な問題だ。僧侶が主催して京都で開かれた「ライフエンディング研究会」で、東京都小金井市で葬儀社を経営する是枝嗣人氏が講演、死者と遺族との人生自体に寄り添うという姿勢を提示し、参加した宗教者や葬送、福祉関係者らの論議が深まった。
個性的な葬儀の実施実績、『日本一笑顔になれるお葬式』などの著書のある是枝氏は、時代による形式の変化の根底にある葬儀の本質とはという点に切り込み、当事者の死の後での遺体処理プロセスの運用サービスという通常の「葬儀社」の概念とはかなり趣を異にする取り組みについて語った。
テーマとしてのキーワードは、「良い人生 良い老後 良い介護 良い看取り 良い送り 良い供養」という、人生の各ステージに沿った年月の流れによって説明される。良好な人間関係を前提とする「良い送り」は、当然ながら「良い人生」の結果であることが多いが、通常は「送り」以降の段階から対応する葬儀社の在り方について、氏は「その前の人生もサポートしたい」との姿勢を打ち出す。普通は当事者が亡くなってから遺族と関わり始める葬儀関係者がほとんどなのに比べれば刮目に値する。
実際には例えば地域でNPOによるサロンや相談会を開催。葬儀社だけではなく終末期医療関係者やグリーフサポート専門家、心理士やケアマネジャーらと話し合える場を設けている。これは葬儀の“事前営業”ではなく住民との交流、人生の様々な課題を通じた幅広いネットワーク構築が本旨だ。
その過程で、多くの人が身近な人が終末期になった際にどう対応するか、亡くなったらどのような送り方をするか、家族も本人もが自分事として考えることに意義があり、是枝氏らはその支え役を自任している。
近年、いわゆる「終活」を巡っては、ユニークな葬儀や樹木葬など葬送方法、デザイン墓、多彩な「エンディングノート」、個性豊かな死装束や棺桶、「マイ骨壺」に至るまで、「自分らしさ」を演出するサービスが増加しているが、これら自体は全て「ツール(道具)」であり、重要なのはそれらを使う、あるいは使わない者の死生観であることは言うまでもない。
この点、是枝氏の提起はその重要性を考えることを促すと言える。病気の時だけでなく普段から健康相談に乗ってくれる「かかりつけ医」のように、仏事だけではなく日常の相談事に応じてつながりを深める「かかりつけ僧」の必要性が言われて久しいが、「かかりつけ葬儀社」があってもいいだろう。