人材育成の重要性訴え
あじま左官工芸 阿嶋一浩代表取締役(60)
社寺建築、文化財建築の左官工事を手掛けるあじま左官工芸(東京都葛飾区)は1921(大正10)年頃の創業で100年を数える。神社仏閣に特化した分野を切り開いてきた阿嶋一浩・代表取締役(60)は、技術の継承において人材育成の重要性を訴える。
同社は元々マンションなどの左官を手掛けていた。阿嶋氏が父親の後を継いだ頃は資金繰りが苦しかった。代金の支払いが遅い取引先が多かったためで、こうした中で活路を見いだしたのは当時、支払いが早かった寺院だった。
腕のいい職人による丁寧な仕事で信頼と実績を重ねてきた。そんな折にオウム真理教による事件が発生。宗教法人に対する風当たりが強くなり、仕事が減った。そこで、新たに文化財の仕事を引き受けるようになった。仲間の左官業者から宮内庁の仕事を引き継いだことをきっかけに桜田門、大手門などを手掛けた。
その後、社寺に特化し、文化財の分野に進出と、新しい領域を広げてきた阿嶋氏が現在の重要課題と指摘するのは人手不足だ。
「職人がいれば引き受けられる仕事もできない」と吐露する。若手の職人の育成や待遇の改善に力を入れる。日本左官業組合連合会の青年部長を務めたことを通して全国の左官業者と交流を深め、地域を超えて技術の継承、文化財の保護に努める。
技術の継承には長い時間が必要だ。「伝統的な建築物に携わる面白さは参加してもらえれば分かる。一度技術が途絶えると戻ってこない。10年先を見据えた種まきや育成が重要だ」と語る。
(甲田貴之)