寺院統廃合の実態と特徴(2/2ページ)
駒澤大仏教経済研究所研究員 梶龍輔氏
次に、地域ごとの統廃合の発生状況を確認しておく。地方区分ごとの統廃合数を宗派別にみると、北海道、甲信越、北陸、近畿以西の全域で本願寺派が最多であった。東北と東海では曹洞宗、関東は日蓮宗がそれぞれ最多を占める。地方によって宗派間の割合に差が生じるのは、本願寺派が西日本や日本海側を中心に他派と比べて高い割合で分布するのに対し、曹洞宗や日蓮宗が東日本で多数を占めるという、全国寺院の分布状況を投影しているためと思われる。
一方、地方ごとの特徴を人口と寺院数という観点からみると、寺院数の濃淡によって廃寺数に違いがあることが浮かび上がってくる。人口に対する寺院数を割り出した先行研究では、関東地方は人口10万人あたりの寺院数が約33カ寺であるのに対し、北陸地方は約162カ寺とその差は5倍近く、北陸をはじめとした後者を「寺院の過密地域」と呼んでいる。このことを踏まえて地方区分ごとの統廃合数を概観すると、10万人あたりの寺院数が全国平均を上回る「寺院の過密地域」である中国(139カ寺)、北陸(119カ寺)、東海(107カ寺)、甲信越(98カ寺)、近畿(80カ寺)で、より統廃合が進行している。
つまり、少ない人口に対して寺院が多い地域ほど加速度的に寺院再編が進んでいるとみられるのである。
過疎/非過疎地域に立地する(していた)統廃合寺院の割合を確認すると、3宗派とも過疎地域よりも非過疎地域のほうが割合が高かった。廃寺は過疎か非過疎かの別なく生じていることがわかる。これを宗派別にみると、本願寺派が過疎地域48・1%(206カ寺)/非過疎地域51・7%(222カ寺)という結果で、3宗派の中で最も過疎地域が占める割合が高かった。過疎という社会的環境が寺院存続を規定する要因の一つになっていることが指摘できる。
ただし、大都市部を含んだ非過疎地域のほうが廃寺が多い事実にも目を向けなければならない。まだ断片的な情報しか持っていないが、東京23区や政令指定都市でも廃寺が生じていることを確認している。都市寺院が「寺じまい」へと至る背景に何があるのか、筆者にとって目下の課題である。
ここでいう「兼務寺院」とは、当該寺院を本務地とする住職が不在で、別寺院の住職が当該寺院を兼務・代務しているケースを指す。仏教宗派の調査では兼務寺院の増加を示す報告がなされている。例えば曹洞宗宗勢総合調査によると、1985年から2015年にかけて全寺院に対する兼務寺院の割合が上昇し続け、15年時点で2割を超えた。
兼務寺院の顕著な特徴として指摘できるのが経済規模の小ささだ。筆者も携わった多宗派寺院調査(2023年)の分析によると、専従住職がいる本務寺院の法人収入が平均800万円台であるのに対し、兼務寺院は平均200万円程度に過ぎない。同じような状況は仏教宗派による調査でも指摘され、住職らの寺院継承意識にも影響が出ているようだ。本務寺院と比べて収入規模が過小な兼務寺院においては、たとえ護法精神や布教教化の使命から寺院を護りたくても、宗教活動や日常生活に必要な資金を確保できず、自坊の行く末に見切りを付けざるを得ない場合もあるようだ。実態と意識両面において、兼務寺院の存続可能性は相対的に低いといわざるをえない。
では、40年間に統廃合した寺院のうち兼務寺院はどのくらい存在するのだろうか(本願寺派は不明のため除外)。
曹洞宗204カ寺のうち兼務寺院は142カ寺で69・2%、日蓮宗71カ寺のうち52カ寺で73・2%と、両派とも7割前後を占めた。先にも述べたように、曹洞宗における兼務率が2割であるため、統廃合寺院に占める兼務寺院割合はかなり高いといえよう。
また、これら廃寺となった兼務寺院の多くは、当該寺院の住職が本務地とする寺院へと合併(統合)していることもわかった。つまり、同一人物によって代表役員が担われている複数寺院のうち兼務寺院を閉じることとなり、財産や檀信徒を本務寺院へと引き継がせて兼務寺院を解散しているのである。こうした「本兼合併型」と呼びうるケースは曹洞宗・日蓮宗ともに最多を占め、寺院再編の手法として主流をなしているように思われる。