寺院統廃合の実態と特徴(1/2ページ)
駒澤大仏教経済研究所研究員 梶龍輔氏
筆者は、近年指摘されている廃寺の増加という現象を実証的に研究するために、仏教宗派から公開された寺院の統廃合情報を集め、数量的に可視化する作業を進めている。これまで廃寺については、書籍や報道などで個別事例が報告されることはあったが、信頼できる数値データから定量的に実態分析がなされたことはほとんどない。
宗教社会学からみた廃寺は、人口減少社会の到来や家族構造の多様化といった日本社会をとり巻く大規模な変化と結びついたアクチュアルな事象といえる。これを数値データから一般的傾向を分析することで、マクロな特徴を指摘することが可能となり、ひいては寺院の将来を展望することにも繋がるかもしれない。
そこで筆者は、浄土真宗本願寺派(以下、本願寺派)、曹洞宗、日蓮宗の伝統仏教3宗派を対象として、実際に宗教法人を合併(2カ寺以上の寺院を統合)もしくは解散(1カ寺単体での解散)する手続きを行ない、宗派の登録からはずれた寺院の統廃合に関するデータを収集した。本願寺派と曹洞宗は、宗派発行の機関誌で公示された情報を追跡し、日蓮宗は統廃合情報を公開していないため、同宗宗務院から寺院運営に関する記録の閲覧許可をいただいて、合併・解散だと判断できる情報を抜き出した。
収集期間は1983年から2022年までの40年間とした。こうして集めた寺院情報に住所、住職名、過疎地域指定の有無、寺院区分(本務・兼務)など、分析に用いるデータを可能な限り加えて「寺院統廃合データ」を作成した。以下、このデータに基づいて全国的な実態と特徴を大まかに述べてみたい。
40年間で統廃合の手続きを行なって消滅した寺院の数は本願寺派428カ寺、曹洞宗204カ寺、日蓮宗71カ寺を数え、合計703カ寺であった。1980年代以降、廃寺は一貫して増加傾向を示しているが、とりわけ2013~22年の期間に279カ寺、つまり全体の約4割が直近10年間に消滅している。
次に宗派ごとの廃寺数をみてみよう。本願寺派は1983~87年のあいだに35カ寺が廃寺となっているが、年を追うごとに数を増やし続け、2018~22年では85カ寺にまで増加している。これに対して曹洞宗は、80年代から90年代には本願寺派と比べて4分の1程度の数で推移していたが、2000年代に入ると顕著な増加をみせはじめ、直近5年間では65カ寺と急激に増やしている。他方で日蓮宗は、今のところ顕著な増減はみられなかった。40年のスパンで寺院の統廃合を概観すると、本願寺派が他派に先駆けて進行し、続いて曹洞宗が本格的な統廃合の時代を迎えているといえそうだ。
以上を踏まえ近年の傾向を超宗派的に俯瞰するならば、寺院の統廃合は特定の宗派に限らず加速度的に進行しているとみなせるだろう。このことは国の調査からも裏付けられる。
文化庁『宗教年鑑』によると、2006年から22年にかけて宗教法人格を有する寺院が本願寺派で203カ寺(10290カ寺→10087カ寺)、曹洞宗で157カ寺(14624カ寺→14467カ寺)減少している。また法務省「登記統計」に示された宗教法人の「解散」件数に注目すると、2009年には188件だったのが徐々に数を増やし続け、2021年には668件、22年も676件と急増している(ただし仏教系以外の宗教法人を含む)。「寺院統廃合データ」と照らし合わせて大まかな情勢を推考すると、2000年前後から統廃合による廃寺が増加し始め、2020年頃を境にその勢いが大きく増して、本格的な寺院減少時代を迎えつつあるのかもしれない。
この背景には、少子高齢化にともなう人口減少時代への突入といった人口動態をめぐる趨勢との関連が想定されるが、一方で「寺じまい」を選択した寺院が円滑に合併・解散手続きを行なえるよう宗派が後押ししていることも関係するだろう。例えば本願寺派では合併・解散にかかる費用を「寺院振興金庫」から助成しており、臨済宗妙心寺派や天台宗でも類似の支援制度が存在する。曹洞宗では合併・解散へ至るまでに必要とされる諸手続きについて解説したマニュアルを作成し、インターネット上で公開している。