今上陛下の“高齢譲位”と新天皇の御大礼(2/2ページ)
京都産業大名誉教授・モラロジー研究所教授 所功氏
それでは、陛下の御意向を実現するには、どのような法的措置が必要だろうか。私は典範の第4条「天皇が崩じたときは、皇嗣が直ちに即位する」という原則を残し、その中間に「又は皇室会議の議により退位した(ときは……)」の15文字を加えたらよいと考える。この点、明治の皇室典範が、本文を変更せず「時ニ随ヒ宜ヲ制シ以テ国運ノ進展ニ順応スル」ため「増補」という形で新条文を補ったような方法も参考になろう。
とはいえ、そのため論議が複雑化・長期化し過ぎるようであれば、当面は高尾説のごとく、典範と別に「単行特別法を制定」することが、現実的な対処法かもしれない。
東京五輪前年にも実現?
ともあれ、政府と国会の真摯な取り組みによって、今上陛下の「高齢譲位」を可能とする道が拓かれるならば、近い将来それが実現されるにちがいない。
畏れ多いことながら、その時期を敢えて推測すれば、平成31年早々、陛下(85歳)が皇太子殿下(59歳)に譲位されると、その翌年(2020年)の東京オリンピック・パラリンピックは新天皇を名誉総裁として迎えることになろう。
その場合、主要な三つの儀式=御大礼が行われる。まず第一は、皇位継承に不可欠な三種の神器と二種の御璽(戦後の皇室経済法では「皇位と共に伝わるべき由緒ある物」と称する)を、現皇太子が受け取られる「践祚式」(前回から「剣璽等承継の儀」と称する)である。これが前回は先帝の崩御直後に深い悲しみの中で行われた。
しかし、いわゆる生前退位(私のいう高齢譲位)が実現すれば、まだお元気な今上陛下から皇太子殿下に直接お手渡しされるような践祚式を晴れやかに行われることも可能であろう。
ついで第二は、新天皇の皇位継承を国内と海外に披露し、新時代に臨む決意を表明される「即位礼」である。これが前回は、先帝の1年にわたる諒闇(服喪)を終えてから準備して、平成2年11月12日昼、皇居の宮殿(松の間)で、京都御所から運んだ高御座に天皇が(また御帳台に皇后が)登って行われた。
しかし、生前退位(高齢譲位)が年初に行われるならば、その直後より準備して、半年以内に実施されることも可能となろう。その場所は、国内外の代表数千名が参列されるから、前回同様、皇居の宮殿を用いられるとみられる。
さらに第三は、毎年11月23日夜、宮中の神嘉殿で営まれる新嘗祭を、御代始めの神事として大規模に行われる「大嘗祭」である。これが前回は、即位礼から10日後の11月22日夜から翌未明まで、皇居の東御苑で斎行された。しかし、仮に譲位・践祚が年初に行われたら、直ちに神饌用の米と粟を作る悠紀地方(主に東日本)と主基地方(主に西日本)の斎田を卜で定め、その秋に収穫して実施されることも可能になろう。
ただ、その大嘗祭は、東京よりも京都の方がふさわしいと思われる。戦前は明治天皇の叡慮に基づく旧皇室典範の定めにより、大正天皇と昭和天皇の場合、即位礼も大嘗祭も京都で実施された。それゆえ、盛大な即位礼は、平成と同じく皇居の宮殿で行われるにせよ、厳粛な大嘗祭は、大正・昭和と同じく、京都御所の東南にある仙洞(上皇)御所の跡地に大嘗宮を建て、古式ゆかしく営まれることが望ましいのではなかろうか。
なお、今秋(9月10日から11月13日まで)京都市伏見区の京セラ美術館と城南宮で「近世京都の宮廷文化」展覧会を開催している。これは昨年の大正大礼百年を機として民間有志(代表小生)が企画し、京都市・京都府神社庁・京都新聞社の後援により実現した。江戸時代を中心に明治・大正・昭和の即位礼と大嘗祭に関する貴重な優品を多数展示している。おそらく3年後に迎えると予想される次代の御大礼について考えるためにも、ぜひ参観して頂きたい。