AI侮るなかれ
生成AIはまだまだおもちゃだと侮っていたが、最近、古代ギリシャやローマなどの西洋古典に特化した「ヒューマニテクスト」という対話型AIの存在を知った。名古屋大の岩田直也准教授らが共同研究で作成・公開したもので、日本語にも対応している◆試しに「人生の意味を教えてください」と打ち込んでみた。セネカやプロティノスを引用した応答が整然と表示され、まるでよくできた大学生のリポートを読んだような感覚を覚えた◆昨年末、岩田准教授が登壇したシンポジウムで開発のきっかけを聞いた。西洋古典の分野では既に原典テキストや辞書、文法書などがオンラインで公開されていたが、一般の人には言語の壁もあり利用が困難だった。そうしたデータベースの活用を前提に、AIの文脈処理能力によって日本語での応答を可能にした◆その上、信頼性の低い出力を生成しないための仕組みや、出力元の典拠情報を付与する設定などを盛り込んだ。哲学、歴史、文学などをまたいだ領域横断的な研究を推進するため、ほかの時代や地域に関するデータベースを取り込むことも展望していた◆意地悪くこのAIに仏教について質問してみた。期待していたわけではないが、実は古代ギリシャの著作に、インドの宗教・哲学的伝統や仏教の「沙門」と推定される修行者への言及があることが知れた。生成AI侮るなかれ。(佐藤慎太郎)