宗教法人法をどう理解するか(1/2ページ)
近畿大法学部教授 田近肇氏
2022年7月の安倍元首相の殺害事件の後、旧統一教会の問題に関連して、違法な行為をしている宗教法人に対して所轄庁は積極的に権限を行使すべきだとか、さらには宗教法人法を改正すべきだという主張が、しばしば、政治家やマスメディアなどによってなされている。それらを目にするたびに気になるのは、そうした主張の背景に、宗教法人法は単に宗教団体に法人格を付与する法律であるにとどまらず、所轄庁が宗教活動を規制・監督するための法律だと捉える発想があるのではないかということである。
しかし、宗教法人法がどのような性格の法律かを考えるに際しては、戦前の宗教団体法と、戦後の宗教法人令・宗教法人法とでは基本的な発想に違いがあるという点を見落としてはならない。
宗教団体法は、宗教的な集団に対して法人格を与えるというだけでなく、信教の自由の制限の根拠を法律に設けるということも目的としていた。そして、宗教団体法は、主務大臣は「安寧秩序ヲ妨ゲ又ハ臣民タルノ義務ニ背ク」教義の宣布、儀式の執行、宗教上の行事を制限・禁止し、業務停止・設立認可の取消をすることができると定めていた。このように、宗教団体法は、主務大臣が宗教活動を統制するための法律という性格も有していたのである。
これに対し、いわゆる人権指令(1945年)を受けて制定された宗教法人令は、主務大臣が宗教活動を統制するための法律という性格をもたず、「純然たる宗教法人の財産上の規律を内容とする」ものと性格づけられた。その後制定された宗教法人法も、基本的には宗教法人令のこの考え方を引き継いでいる。当時GHQ宗教課のスタッフだったウッダードの言葉を使えば、「この法律の制定の目的はただ一つ、すなわち諸宗教団体が法人格を得ることができるようにすること以外にはまったくない」のである。
宗教法人法の1条2項が「〔同法の〕いかなる規定も、個人、集団又は団体が、その保障された自由に基いて、教義をひろめ、儀式行事を行い、その他宗教上の行為を行うことを制限するものと解釈してはならない」と定めているのは、その趣旨を表したものということができよう。
このように、戦前の宗教団体法と戦後の宗教法人令・宗教法人法との間には、その基本的な発想という点で断絶があり、宗教法人法は、純然たる法人格付与法であって、宗教団体法のように信教の自由の制限を定めて宗教活動を統制するということは目的としていないと理解すべきである。
宗教法人以外の法人は、法人格を与えるための法律による規律だけでなく、法人の事業そのものを対象とする法律の規制を受けることがある。営利法人は、会社法による規律に服するのに加えて、いわゆる「業法」の規律に服することが少なくなく、例えば銀行は、会社法に加えて、銀行法による規律を受け、その業務や財産の状況に関し報告・資料の提出要求や立入検査に服し、業務の停止や措置命令、免許の取消を受けることがある。
また、非営利法人についても、例えば、社会福祉法は、社会福祉事業を行うことを目的とする団体に法人格を付与するだけでなく、社会福祉法人が所轄庁の監督に服することを定めており、所轄庁は社会福祉法人に対し、その業務・財産の状況に関し報告を求め、立入検査をすることができ、その運営に関して措置命令を行い、場合によっては業務の停止や解散を命じることができるものとされている。
このように、宗教法人以外の法人は、法人格を与える法律に加えて、法人の事業そのものを規制する法律にも服していることから、その法人が違法な行為をしているときには、まず改善勧告や措置命令、事業停止命令といった是正のための手段がとられ、段階を踏んで対応がなされるのであり、いきなり解散命令(法人格の剥奪)という手段がとられるのではない。