災害時・地域防災での寺院の役割 ―大阪・願生寺の取り組みからの示唆(1/2ページ)
ジャーナリスト 北村敏泰氏
要医療的ケア者向け一時避難所など地域防災に寺院を活用する取り組みを継続している大阪市住吉区の浄土宗願生寺(大河内大博住職)で先頃、大規模地震を想定した避難所設営の図上演習をするワークショップが開かれた。経年で推し進める「願生寺防災プロジェクト」の一環で、住民多数が参加し、防災をキーワードにした寺と地域との協働の重要性と留意点が再認識された。
同プロジェクトは、人工呼吸器が必要な子供ら災害時に一般避難所では過ごしにくい被災者を寺で受け入れるのを目標に2021年秋にスタート。災害医療やボランティア・支援活動など各分野の専門家、宗教施設と防災の研究者らを助言者として、願生寺のある地域の実態に即した具体的対応方法の協議を積み重ねた。その中で、災害の際に医的ケア者を地域全体で支える必要性が確認された。
その観点からも地域自体の防災力を高める狙いで、地元自治会・町内会や行政、社会福祉協議会、学校、事業所などとも密接に連携を深め、様々なプログラムを寺を中心に実施。「夏休み寺子屋」でのケア児と地域児童の交流、当事者家族のランチ会、混合スポーツ大会や、町内会役員を中心とした防災研修などを行い、実際に重度の障がいがある子供とその親らも移動ベッドで寺に姿を見せ、他の住民と交流する機会も設けられた。
これらの実践が示すように、その中で寺のプロジェクトの留意点として浮かび上がったのが、第一に、災害でさらに「弱者」となり得る医療的ケア者と地域住民とのつながりは非常時だけでなく平時から大事であり、“顔見知り”の関係性がいざというときに意義を持つこと。第二に、それを含めて地域全体が日常から「防災」を意識してしっかりつながりを持ち、しかもその「共同力」に寺が深く関与していること。そして第三に、そのためにも寺が普段から様々な形で地域と関係を深め、開かれている必要があるということだと言えよう。
そのようなコンセプトに沿った活動で、具体的な成果も見られる。例えば、願生寺のある「墨江東三町会」の災害時一時避難場所が住民からの要望で同寺に設定され、町会の「防災庫」が寺に設置された。境内に井戸を復興し、停電・断水時でも生活水として使用可能となった。
また、寺のエリアではないが、いろんな催しで関係が深まった隣接の清水丘町内会の防災備品も願生寺に保管されている。「車椅子の完備を」「AEDを設置してほしい」などの声も自治会から届いており、大河内住職は「『町会の防災拠点は願生寺』という役割を明確に持つことができたと考える。お寺という行政と民間の“中間団体”が防災拠点を担うことで、自治会の区割りを超えての情報共有や連携を図る橋渡しができてきていることは、とても重要なこと」と語る。
さて、このような流れの中で開かれたワークショップ。「HUG」という、南海トラフ地震に備えて静岡県が開発した訓練方法で、「避難所運営ゲーム」のローマ字頭文字と「抱きしめる」の「ハグ」をかけた命名だ。今回は、災害看護学の専門家である亀井縁・四天王寺大教授の指導により、初夏の日中に近畿で大地震が発生し地域にも大きな被害が出たとの設定で、近所の学校に住民が自分たちで避難所を設営するという図上のシミュレーションを行った。
前記の墨江、清水丘の両町内会から防災に関心の深い役員ら計30人近くが参加。町会ごとに2グループに分かれ、それぞれに大きな机の上に広げた学校と体育館の縮尺図面に向き合う。演習は、続々と避難に訪れる住民たちの情報を書いた「避難者カード」と、現実に避難所で起こる様々な事象を示した「イベントカード」とを進行役が次々に読み上げ、参加者たちが状況に対応しながら被災者を誘導する想定で、人1人分のスペースを模した避難者カードを体育館内などに並べていくという手順だ。