IPCR国際セミナー2023報告(1/2ページ)
ジャーナリスト 北村敏泰氏
「IPCR(宗教平和国際事業団)国際セミナー2023」が7日、世界宗教者平和会議(WCRP)日本委員会の設定によって立正佼成会神戸教会で開かれ、日本、韓国、中国3カ国の宗教者、研究者らが「東北アジア平和共同体構築のための課題」をテーマに交流した。特に「コロナが宗教に及ぼした影響と宗教が進むべき道」「自然災害における宗教者の役割」の2セッションで、社会における宗教者の在り方についての掘り下げた論議が交わされた。
セミナーにはチェ・ゾンス韓国宗教人平和会議代表、シー・ミンハイ中国仏教協会副会長、戸松義晴・日本委員会理事長ら60人余が参加した。
コロナ禍に関するセッション1ではチョン・ギョンイル韓国聖公会大学研究教授がパンデミック以降の同国における宗教界の動きに関連して発題。「歴史上、大きな文明転換は常に大きな災害や災厄と共に起きた」と前置きし、そこでの宗教の役割を、苦痛にある人々を霊的に支援し慰め治癒することを基本課題として、「社会的」「生態的」の2項の「公共性」を実践することと提示した。
前項ではパンデミック期に役割を発揮できない宗教界に同国民の信頼が大きく低下したことを世論調査データで示し、宗教の存在理由が「人間を害しない最少倫理ではなく、人間を愛する最大倫理」だという認識からは、「慈悲と愛を能動的に実践しない宗教は無害であるかもしれないが無用である」との自省に立ったという。
具体的には、災厄で最も虐げられる社会的弱者への優先的配慮と実際のケアが必要なのに決定的に不十分だったとし、コロナ禍ではローマ教皇フランシスコが発言したように世界の宗教共同体は苦痛にある人々の「野戦病院」であるべきだと指摘した。
後項では、パンデミックで産業経済が停滞したにもかかわらず人類がなお無限の欲望に基づく消費や自然破壊を進めていることについて、「人類生存のためにも、あらゆる有機的生命中心の文明に転換するのに宗教の知恵が土台となることができる」と強調。現実に韓国内で宗教団体が進める脱原発やカーボンニュートラル、気候変動抑止の動きを紹介した。
これらの提起は、コロナ禍で実際の有効な働きがあまり見られなかった日本宗教界への痛烈な問題提起にもなっていよう。討論で金子昭・天理大おやさと研究所教授は「日本でも宗教の社会的公共性の実践が求められている」とし、東日本大震災での経緯を基に、「非常事態への対応方法は平常時から整えておかなければならず、宗教もそのような仕組みを構築すべきだ」と論じた。
中国のツゥ・ジェ・北京市カトリック教務委員会秘書長も、災厄時には人々の信仰が崩れたりする危機があることを前提に、「宗教者の最大の助けは付き添いであり、『心理ワクチン』『精神の養分』となる」ことだと精神面を強調しつつも、コロナ禍でオミクロン株の治療薬を確保していた同国内の教会が薬のない住民のためにその近くの教会へ届けるという「愛心薬品の伝送」を実施した実践例を挙げ、それを「信仰行為」と位置付けたのが興味深い。
災害に関するセッション3では、東日本大震災で被災者らの支援に奔走した宮城県栗原市の曹洞宗通大寺・金田諦應住職が、10年以上にわたる活動の概容と宗教者としての姿勢について講演した。発災当初の悲惨な状況下、火葬場で多数の無残な状態の遺体を弔い、突然のあまりの衝撃に涙さえ流せない遺族たちの「心が凍り付いて動かなくなった」ことを実感。その心を「溶かし動かす」ために人々に寄り添い、ひたすら苦しみを受け止める宗教者による移動傾聴喫茶「カフェ・デ・モンク」を開設した。