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《新年座談会⑤》コロナ後、社会・宗教どう変わる?― 贈与としての言葉、宗教者に必要(2/2ページ)

 安藤礼二氏

 中島岳志氏

 釈徹宗氏

2022年1月13日 09時01分

死者との共生がない批評はないですし、創作もおそらくないでしょう。物事を書いたり作ったりすることは遠い他者を弔うことであって、未来の他者につないでいくことだと思います。最澄や空海は優れた宗教者ですが、過去の遠いテキストを今実際に読みながら未来につなげていくことを実践した人ですね。私にとって利他や弔いというのは時間的、空間的な他者との共生で、共に生きるということは共に読み、書くことですね。

中島 今のお話で二つのことが去来しました。

一つは親鸞です。親鸞がすごいなと思うのは『教行信証』のスタイルです。親鸞が最も疑ったものは「自力」であり、自分でオリジナルの思想をつくることをはなから疑っている。彼が懸命にやったことは、死者の器になることだったと思います。『教行信証』はひたすら引用が続く。口の悪い人は、あれは著作ではなくメモだと言いますが、親鸞にとってはあのスタイルこそが思想だったと思います。つまり死者の声を受け止める器になる、そこに何かが生まれてくることをよく理解していた。だから親鸞の思想は『教行信証』のスタイルに現れている。

問題は親鸞にとって最も重要だったはずの法然があまり出てこないのです。法然の言葉の引用がないのですね。これはなぜか。教学的には法然の言ったことの正しさを位置付ける本だから引用の必要はないといわれますが、もう少し踏み込むと、彼は「法然と一緒に書いた」という感覚があると思うのです。

つまり彼にとって死者となった法然は彼方にいるのではなく、すぐ隣で一緒に執筆している存在だった。法然と一緒に対話しながら書いているので、法然自身がそこに出てくるのはおかしいという感覚ではないかと。学術的には位置付けられませんが、親鸞の人生を見ていくと、そうとしか考えようがない。

もう一つは贈与の問題です。書くという営為で私たちに何ができるのかを考えたとき、安藤さんのおっしゃった100年前は大変参考になる。私は第1次世界大戦に注目していて、スペイン風邪はあまり意識してきませんでした。スペイン風邪があけたのは1920年代初頭ですが、その頃の思想はスペイン風邪の影響を大きく受けて、世界を変えないといけないという感覚が非常に強かったのですね。マルセル・モース(1872~1950)の『贈与論』が1925年に出ました。スペイン風邪と第1次大戦のショックで、彼はグローバル資本主義を疑います。最後の章の協同組合論であり、物には霊があって霊が贈与させることを欲するというようなことを言っています。

志賀直哉(1883~1971)に『小僧の神様』という小説があります。日本でスペイン風邪が終わる頃の20年に書かれました。小僧さんが屋台の寿司が食べたくて入って寿司を取ろうとしたら、「何銭だ」と言われ、持っていないから手を引っ込め、恥ずかしそうに店を出ていくのですね。それを見た若い貴族院議員が「かわいそうに。今度会ったら、たらふく食わしてやろう」と思った。後に寿司を食わせてやるのですが、何か嫌な気持ち、晴れない気持ちがある。それを妻が「分かる気がする」と言った、という小説です。

これも贈与の問題に深く関わっていて、最初に小僧さんが手を出してすごすご店を出る時に男は動いていない。「かわいそう」と哀れみの念を持ち「次にやってやろう」という意志になった時、「偽善じゃないのか」とか、やましさの問題が自分の中に生まれてくるのです。ぱっと体が動くことが重要だと志賀は言っていると思いますが、このへんの言葉にはリアリティーがあります。モースにせよ志賀にせよ私たちがその言葉をどう受け止めるのか。親鸞が受け止めたように私たちはその器になれるのか問われていると思います。(つづく)

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