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東奥念仏始祖金光上人没後の説話形成(2/2ページ)

浄土宗来迎寺副住職 遠藤聡明氏

2017年9月1日

引用された往生寺の縁起には、「真似牛伝説」と呼ばれるものもある。牛身に変じた僧に助けられた農夫が富裕になった話を羨んだ別の農夫が、金光をもてなしたところ、農夫自身が牛となってしまい、金光がこれを済度したという。また、義山最要の主張ではないが、金光の入滅年月日については、石碑の摩滅を理由に不明であると明快に断定している。

4.金光上人招来の法然上人座像

宮城県加美郡色麻町の往生寺の本尊法然上人座像は、自身の身代わりとして金光に遣わしたと伝えられる年2回開帳の秘仏である。文献的には前述『御伝翼賛遺事』が初の言及とみられる。

種々の文献が、もとは栗原郡にあった往生寺が旧領主大崎氏の夢告により加美郡に移されたとするが、信頼性が高いのではなく単に引用したものが多いという印象を受ける。この往生寺は1596年以降に曹洞宗の僧が住し、1661年には正式に曹洞宗寺院になったとする地元の地誌『風土記御用書出』(1776年)も、『御伝翼賛遺事』の往生寺縁起をほぼ踏襲した記述である。

5.江戸時代後半期の文献

この時期には各地方の文献が増加した。それだけ金光の知名度が高まってきたともいえようが、相容れない内容の記述も見られる。

金光の拠点であった筑後石垣観音寺(福岡県久留米市)に伝わる『石垣山三種之霊宝由来』(1771年)では、これまで然廓とされてきた人物が金光だとする。『住持相承歴代略伝記』(1781年)では、その金光房然廓は栗原の往生院で1231年に入滅したとしている。

1800年前後には色麻の往生寺の法然上人座像にまつわる、複数の縁起が刊行された。中で『法然上人御影畧縁起』は金光の入滅を1212年9月とし、地元の地誌『嚢塵埃捨録』では1211年8月とするが、入滅後についての言及はない。

以上の諸記録とは異質な印象を受けるのが『金光禅師行状史』(1809年出現)である。これは超能力者的な金光の姿や1217年3月の津軽浪岡での往生を、「伝えた」のではなく「主張した」ものである。ともあれ急遽、金光600回忌がその4年後であるとされた。遺蹟寺院とされる西光寺(青森県弘前市)の良皷意全が当該年に上洛、金光拾得と伝わる如来像を知恩院泰誉在心大僧正にお目にかけ、帰途の江戸では出開帳の形で、諸方より多くの財物を受けた動きも特記しておきたい。

同文献については出現の形態に吟味すべきものがある。これがもともと1282年、その抱き合わせ的な文献が1231年の記録で、近村の古記録から最近見いだされて、1809年に書写したのだとしている。そうした記録が出現した場合、内容精査を要する。

発見者という良導壽源はその少し前、ある機縁から金光の歎徳文を複数作成した。その文面は随所が『金光禅師行状史』と同一、または酷似する。壽源は当時の学僧澂誉信冏に持ち込んだのであろう。やや生硬な文章表現を浄土宗義に合うように修正し、開板する力量の持ち主は信冏の他にはあるまい(刊行は信冏没後の1821年)。

これは何を意味するのか。痛烈な批判を浴びせたのが出羽最上三宝寺(山形県天童市)良知弁識の『金光上人事蹟』(1824年)である。自ら調べた金光の伝や宗史をもとに、『金光禅師行状史』の所説を論破している。弁識による金光の伝にも傍証が難しいものや、他人の行跡との混同が一部あるが、史観として高く評価できる。

6.おわりに

金光に言及する主要な文献を略説した。他にも独自の記録は数あるが、傍証できない記事や、類似したものは割愛した。法然座像の他にも関連遺物がある。それらをめぐる所伝も、ここでは省略せざるを得なかった。

初期には会津とされていた入滅の地が、宮城、青森と北上している。これが史実の歪曲か、新事実か、慎重に検討して判断したい。

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