法然論集 中 教行論考篇 法然仏教成立論・私考…藤本淨彦著
浄土宗の大本山の一つ、金戒光明寺の法主による法然上人研究。講話や講義、論文を整理・改稿し、緒言と結語を付した。
本書で目を引くのは「法然仏教と現代」という論稿。「煩悩凡夫」「一向専修」「生老病死」という三つの着眼点から考察し、現代思潮における法然仏教の意義を明らかにしている。
例えば第1章では精神と身体を明確に区別し、人間の理性や知性、精神に優位性を与えるデカルト以来の人間観への反省を必要とする時代が到来したと主張している。法然上人は人間が現実に生きる存在のありさまを「煩悩凡夫」と捉え「貪り・瞋り・痴さ」の煩悩(三毒)を内にはらむ存在として把握している。近現代の人間観である知性や理性という言葉では捉え切れない「不可思議な人間存在の深み」へと目を向けることを促す。
第2章では知識よりも、念仏をひたすら称え往生を願う「一向専修」、第3章では「生老病死」に対する近代科学や医療技術の役割の限界などにも触れている。近現代の人間観が行き詰まっている今日こそ仏教的な人間観が注目されなければならないと説く。
1961年から宗祖八〇〇年大遠忌までの50年間の法然研究の動向をまとめ、欧米語圏の研究成果も紹介している。
定価4400円、平楽寺書店(電話075・221・0016)刊。