平安京の生と死 祓い、告げ、祭り…五島邦治著
平安京における貴族や庶民の独特な「死生観」についてまとめた一冊。現在放映中のNHK大河ドラマ「光る君へ」の題材にもなっている紫式部の著した『源氏物語』を中心に『栄花物語』などの様々な物語や文献の記述に照らしながら紹介している。
物語の中では主人公と深い関係があった人が死んだ後、亡きがらはそばに置かれ、死者の霊が度々登場して主人公と対話するなど生と死が身近なものだったことを読み取ることができ、著者は「平安時代、死者は夢や巫女の託宣を通して、現世の人に饒舌に語りかけた」と強調。為政者による歴史書とは違い、物語だからこその真実があるという。
また、京都の祭礼や先祖供養などの歴史をひもとく中で「御霊会」に注目。「御霊」とは政治的におとしめられて身分や官職を剥奪されて死に至り、その遺恨からかつての政敵に対して災疫をもたらす怨霊とされ、桓武天皇の弟の早良親王や菅原道真のことがよく例に挙げられる。それが疫病などの原因として庶民に広まり、御霊を祀り鎮める御霊信仰や御霊会として定着した。京都最大の祭礼として知られる八坂神社の祇園祭も元々は「祇園御霊会」だった。京都の精神文化や宗教文化を考える上で、平安時代に生と死が身近にあったことを忘れてはならないだろう。
定価1870円、吉川弘文館(電話03・3813・9151)刊。